ヴッパータール空中鉄道&湘南モノレール姉妹懸垂式モノレール協定締結記念座談会
『ヴッパータール空中鉄道について思いっきり語る』
ヴッパータール空中鉄道との姉妹懸垂式モノレール協定締結を記念し、過日湘南モノレール本社会議室に於いて、ヴッパータール空中鉄道をこよなく愛する下記の方々による座談会が開催されました。かなりマニアックに盛りあがった座談会の模様を以下に掲載いたします。
パネリスト(みなヴッパータール空中鉄道乗車経験あり)
佐藤淳一(武蔵野美術大学デザイン情報学科教授、写真家)
八馬智(千葉工業大学創造工学部デザイン科学科教授)
西村まさゆき(フリーライター)
角田晶子(東京書籍編集者)
尾渡英生(湘南モノレール株式会社代表取締役社長)
モデレータ
宮田珠己(ソラdeブラーン編集担当)
※現役最古の懸垂式モノレール、ヴッパータール空中鉄道の概要と魅力については、このページをご覧ください。
「乗らずにいられない懸垂式モノレールの魅力」
http://www.shonan-monorail.co.jp/sora_de_bra-n/2017/11/110.html
http://www.shonan-monorail.co.jp/sora_de_bra-n/2017/11/post-2.html
第1回 ここが急所だ! ヴッパータール
宮田 ヴッパータール空中鉄道と湘南モノレールの姉妹懸垂式モノレール協定を記念して、ヴッパータールの魅力について、みなさんに存分に語っていただく座談会をはじめたいと思います。今日は乗車経験のある5名の方々にお集まりいただきました。
【左から、角田、佐藤、尾渡、八馬、西村(敬称略)】
宮田 最初に湘南モノレール尾渡社長より今回の協定締結の経緯について簡潔にご説明願えますでしょうか。
尾渡 はい。ヴッパータール空中鉄道は1901年から運行していて、120年近くこのぶらさがり鉄道を維持しておられます。どうやって維持管理しているのか、以前から非常に興味がありました。
また同じ懸垂式モノレールとして、お互いに協力してPRしていくことができればいいなということも考えていました。それで今年の1月頃にメールを送ったところ、むこうの社長さんから返事があり、さっそくゴールデンウィークに訪ねてきました。現地では6時間ほどかけてじっくり案内していただいて、その場で姉妹懸垂式モノレールとしてパートナーシップを結ぼうという話になりました。日本には、同じ懸垂式の千葉都市モノレールさんや上野動物園さんにも懸垂式モノレールがありますので、今後できればそういったみなさんをも巻き込んで、お互いに協力していけたらと考えています。
宮田 ありがとうございます。
八馬 去年の暮れに乗ったんですが、ヴッパータールの新型車両はかなり揺れが抑えられてる感じがしましたね。
尾渡 ブルーのやつですね。
佐藤 そんなに変わりましたか? 原理的にランゲン式(ヴッパータール空中鉄道が採用)は、サフェージュ式(湘南モノレールが採用)に比べてめちゃくちゃ揺れるはずなので、私はあれはわざと好きでやってるんだろうなと解釈してたんですが(笑)。
※サフェージュ式とランゲン式の違いについては以下のページをご覧ください。
http://www.shonan-monorail.co.jp/sora_de_bra-n/2017/11/post-1.html
尾渡 ヴッパータールの鉄鋼構造物全体のシステムはここ20年ぐらいの間に、ほとんど全部入れ替えてますね。どう工事したのかはよくわかりませんが。
西村 駅は全部新しかったですね。
尾渡 ほんとにきれいでしたね。
西村 駅の形がすごくよくて、キュンキュンきました。駅ごとにまた個性があって、すごく面白かったです。
尾渡 こういう駅ですね。
【Ohligsmuhle駅/尾渡撮影】
八馬 この造形が一番激しかったですね。
西村 これは製薬工場のそばにあった駅かなあ。
尾渡 そうですね。こういうガラス張りで作っているものと、古いものなんだけど、新しく直して色合いを昔のお城みたいにしているのと半々ぐらいでしたかね。
西村 個人的には変わってないところもよかったな。鉄道の駅に一番近いところ。
尾渡 これです。ハーフトバーンホフ。ドイツ国鉄のすぐそばにあるところです。
【Hauptbahnhof駅/尾渡撮影】
西村 ちょっと工事してましたけど。あそこはビルの雰囲気がすごく古くて、それはそれでよかったです。
尾渡 よかったですね。
佐藤 昔の西ドイツって感じですね。ぐちゃぐちゃで。ルール地方の田舎っていうか。田舎都会。
西村 田舎都会って(笑)。そうか。
佐藤 現在の統一されたドイツじゃなくて、西ドイツ臭さが残ってる。無茶苦茶なんですよ。筑豊を十倍ぐらい複雑にしたような鉄道網。ここからここまで5通りぐらいで行けるみたいな、そういう世界です。
西村 人口密度結構多いですよね。田舎だけど。
尾渡 紡績から発展した街ですね。
西村 バイエルの工場もありますよね。
佐藤 ヴッパータールはケミカルのほうにいったんですけれども、また山ひとつ越えると鉄だったりする。谷ごとに産業が違う。
八馬 石炭が採れる場所、鉄鉱石が採れる場所とか、谷ごとに違う発展の仕方をしているのに、全部つなげちゃったから鉄道網がぐちゃぐちゃというか。ほんと行きづらいんですよ。
佐藤 いや、あれは乗ったら最高に面白いですよ(笑)。どうやってあそこに行けっていうんだ、って。
西村 むこうの鉄道は、ぱっと乗れるのがいいですね。
八馬 何番のどこで乗ればいいのか、聞かないとわからなかったですね。僕は。
佐藤 表示は実はちゃんとしてますよ。もともと複雑だからわかりにくいけども、ちゃんと情報は全部出てるんです。
八馬 なるほど。
宮田 ではそろそろ個別に、ヴッパータールのここがよかった、ここがオススメという話をお願いしたいと思います。では、まずは佐藤さんからお願いできますでしょうか。
佐藤 では、私から。といっても今日は自分の撮った写真が1枚もない。お前ほんとに写真家なのかっていう(笑)。動物園行くためのインフラだったので、モノレールは撮ってないんですよ。
西村 そうか、動物園があるんだ。
角田 そこに行きつけてるんですか。
佐藤 カワウソ撮りに行ってるんで。装備が違うんですよ、動物撮るのとモノレールとでは。兼用できない。で、ヴッパータール攻略法ですが、前回記事に書かせていただいた内容を検証する形でお話ししようと思います。総延長13.3キロのうち10キロ分が川の上で、残りが道の上で、ヴッパータール中心部は谷底に開けている。なぜ川の上に造られたかというと、平地がない。川の上を通すしかないということになったわけです。
尾渡 最初は物流のために造られたといってました。
八馬 人間を運ぶのではなくて?
尾渡 テキスタイルの物流に必要だったと言われてましたけど、100何十年前の話なので。
佐藤 で、川の上を走らせた。
【尾渡撮影】
佐藤 で、これは街の側。
【八馬撮影】
八馬 いいですよねえ。
佐藤 写真としては川の上がよく使われると思うんですが、こっちのほうが私は面白いかな。
尾渡 私はとにかく橋脚の間隔が短いのに驚きました。
佐藤 当初の設計のままですね。
宮田 あんなカーブした橋脚で支えるのって大変なんじゃないですか?
八馬 下の道路との関係で、この時代はカーブさせるほうが都合がよかったんでしょうね。今であれば違うつくりになると思いますが、当時の人件費の低さから手間をかけたんでしょう。
佐藤 まさに川のときはガバッと広くとって、街なかは狭く支える。
八馬 ただ、この橋脚だけは交差点を斜めにわたっているので、スパンを長くとってますね。
【八馬撮影】
尾渡 ここ以外は、ほとんどの橋脚は同じものを使ってる感じでしたね。ここだけじゃないでしょうか。
八馬 そうですね、ここだけ。
佐藤 これはフォーヴィンケルの駅前の交差点ですけども、まさにそれを私が言いたかった(笑)。
八馬 すみません(笑)。
佐藤 いえ、恐縮です(笑)。続いては、ここが急所だヴッパータール。
八馬 急所?(笑)
佐藤 はい。まず、毎回私が言っております。アウトバーンの交差です。ここをちょっと攻めてみたい。
佐藤 ちょうど地表を行くところと川を行くところの間ですね。ゾンボーナーシュトラッセとハンマーシュタインの間、ここはゾクゾクっとします。空飛ぶ絨毯感覚です。
八馬 ここはいいですね。
佐藤 アウトバーンA46、S536の上を跨いでますね。ここです。自分で撮れないんで、グーグルで撮った画像ですけども。
佐藤 この部分がいいんですね。防音壁すれすれ、ほんの数メーター上を通る。
八馬 いいですよねえ、ここは。高速道路の上はやはり興奮しますね。写真見ると、ふつうに橋の上から撮ってるみたいになりますけど、これが動いているというのは興奮します。
【八馬撮影】
【八馬撮影】
宮田 クレーン車とか下通ったら、引っ掛かりそうで怖い。
八馬 ん、三角トラスを吊ってるんだ、ここ。
(※写真がないので、上記空撮写真を拡大してご覧ください。)
佐藤 後から吊ったんじゃないですかね。道路のほうが後ですから。
八馬 どうですかね。どっちがどっちかわかんないのがいくつかありますよね。
西村 後から吊ってるってどういうことですか?
佐藤 最初は普通の緑色のやつがあって、後で補強する形でグレーのやつをガバッとはめ込んでいるわけです。
八馬 これはちょっと建設の順番を知りたいですね。
西村 高速道路のほうが後なんですよね。
八馬 だと思います。だってあれは1930年代以降...。
佐藤 1901年(モノレール開通年)にはまだできてない。
佐藤 で、2番目。先ほども出てまいりましたバイエルの工場内通過。
八馬 (胸が)熱いところですね。まばたき厳禁。
【八馬撮影】
佐藤 これもグーグルで見ると、ここによく見るバイエルのマークが見えてます。
佐藤 ちょうど河岸段丘で谷底になっていく感じがものすごくよくわかる場所ですね。一番低いところを走ってます。日本だと炭鉱なんかに見られる、段々になってて、そこに沿って町ができてるっていうのがわかる。
宮田 こういうのが幾筋もあるんですね。
八馬 そうです。ちょっとした河岸段丘の平地があったところには帯状に建物ができていくって感じなんでしょうね。というか、そこの道が通って、その両脇が町になっていく。
宮田 なんかムカデみたいですね。
(つづく。このあとさらにディープな話に!)