湘南モノレール開業当時の古写真の場所を探し求めてブラブラ歩く第三回目。
前回は、解像度の高い写真に助けられ、なんとか正確な場所を探し当てることに成功した。
今回も、ライターの宮田さん、井上さんと私、西村。そして、湘南モノレール の池田さんとともに、モノレールの古写真からその場所を探し当てたい。
擁壁のある風景
今回、撮影場所を探し当てる古写真はこちら。
いままでの写真と違い、モノレールの橋脚やレールなどがいっさい写ってない。大きくカーブする道路、道にはコンクリートミキサー車の後ろ姿、そして奥には丘をけずったとおぼしき崖と、その崖を覆う擁壁、そして崖にそってゆるやかに登る坂道。
丘の上には、建設中の家屋が点在し、そして丘の上の看板には「只今売出し 江ノ電分譲」と書かれた看板が出ている。
これは明らかに開発途上のニュータウンだ。つまり、古くからあった集落ではなく、これから住宅や商店などが建てられる予定の場所だということが考えられる。
湘南モノレールの会社が保存していた写真なので、湘南モノレール沿線であることは間違いないが、具体的な場所の手がかりになるようなものがあまりない。
この写真は「擁壁の坂」と呼びたい。
偶然気づく
さて、話は前回の「立位体前屈」を探し終えた時にさかのぼる。
目的の場所を探し当て、次の写真「擁壁の坂」を探すため、駅に移動するために歩き始めたときだ。ライターの宮田さんが突然声をあげた。
「あれ、あそこの擁壁って、この写真の場所じゃないですか?」
促されて景色をながめてみると、たしかに、丘の形、擁壁と坂の具合は似ている。似ているけれども、圧倒的に家屋が少ない。
しかし、この西鎌倉周辺は、モノレールの開通とともに開発が進んだニュータウンだ。そうおもえば、写真が撮影された昭和40年頃は、これぐらいなにも無かったということも十分考えられる。
たしかに似てるけど......
しかし、どこかわからない古写真の場所が、まったく推理や探索を行う前にいきなり、偶然みつかるものだろうか? どうしても信じられない。
この「擁壁の坂」の写真が撮られたとおぼしき場所を探すため、道を引き返した。
「擁壁の坂」の写真をみると、途中で手前の道に出ようとする車が止まっているのが見える。真ん中あたりが十字路か丁字路になっているのではないか。右側に道路のようなものは見えないので、おそらく丁字路だろう。
この丁字路を、擁壁のある坂道の見え方を考慮した上で、探すと、前回探し当てた「立位体前屈」の赤羽根交差点のすぐ横ではないかということになった。
ちょうど、ガソリンスタンドの手前に、坂につながる丁字路がある。距離を考えるとおそらくここだ。
たしかに雰囲気は似ているといえるけれど、昔の写真に比べて、今は木が生い茂り、建物も多く、様子がまったく違う。決定的な決め手が、ない。
ここで、スマホの地図を確認していた井上さんがあることに気づいた。
「昔の写真の電柱看板を見ると『腰越中央病院』と書いてありますけど、実際この道(県道304号線)をこのまままっすぐ進むと、腰越中央病院につながってますよ」
電柱の看板は、その沿線沿いにある店舗や施設の広告のみ。というわけではないとは思うが、かなり有力な情報ではないだろうか。
ただ、ここがその場所だという証拠にしてはいささか弱い。
擁壁を近くで確認してみる
近づいて、擁壁の様子を確認してみたものの、件の写真のものと同じかと言われると、自信をもって同じとはいえない。ようするにわからないのだ。
江ノ電分譲が気になる
丘の上にある「江ノ電分譲」も気になる。江ノ島電鉄が過去に住宅の販売を行っていたのではないか。そんな期待を込めて、ネットで検索してみる、しかし、西鎌倉の宅地開発の歴史が知りたいのに、でてくる情報は格安一戸建ての不動産情報ばかり。ネットがまったく役に立たないこともあるのかと、なんとも渋い気持ちになった。
ここなのか??
探し当てた場所は、丘や道路、擁壁などの位置はぴったりなのだが、なにかこう、これだっ! という、決め手に欠けるのだ。
実際に、古くから住んでいる人に写真を見てもらったらどうか? と、ガソリンスタンド近くにいた、年配の男性に話をきいてみたものの、あまりにも写真が古すぎて、やはり「わからない」という。
もう、一歩、あと少しという感じなのだが、「合ってる」または「違う」というはっきりした判断がほしい。
そばやで休憩
ぐだぐだしていても仕方がないので、ちょうど昼時ということもあり、みんなで、昼食をとることになった。
お蕎麦をいただきました
西鎌倉駅前のそばやに入り、注文を終えると、やはり話は先程の場所が「擁壁の坂」の現場なのかどうかという検討になる。
写真の場所について検討がはじまる
宮田「ここだと思うんですよ。道路のカーブや丘の位置から考えて間違いないと思うんです」
西村「ガソリンスタンドの手前に、川がありましたが、『擁壁の坂』の写真には、それらしいものが見えないんですよ。橋の上から撮ってるんでしょうか?」
井上「横を向いているトラックの後ろにある看板なんて書いてあるんでしょうね?」
西村「拡大してみます?」
井上「家具センターの看板とトラックの間にある看板......戸田建設ってかいてありませんか?」
西村「その下は湘南モノレールって書いてあるようなきがしますね」
どうやら、坂の上に、工事に関係する施設か現場があったようだ。ただ、これも決め手とはいえない。
暗礁に乗り上げたままだ。
しかし、ここであっさりと問題が解決してしまう。
「なつかしい写真ですね」
そばを食べ終わり、お会計を済ませようとしたところ、念のためにお店の女将に写真をみてもらった。
女将「あぁ、なつかしい写真ですね、これ、そこですよね?」
そこですよね? というか、これがどこか探してるんです我々は! と、前のめり気味に事情を説明したところ、写真をもう一度確認してくれた。
女将の話によると、やはりこれは西鎌倉の丘の昔の写真に違いないという。彼女は、宅地開発される前、まだ、自然が豊富であったころから、西鎌倉に住んでおり、子供の頃は、そのへんでよく遊んだという。
しかも、丘の方に江ノ電の分譲住宅が、たしかにあったということも覚えていらした。
ずいぶん悩まされた「擁壁の坂」の写真。ここであっさりと解決してしまった。やはり、地元に住んでいる、昔のことを知っているひとの証言は強い。言われて改めて見てみると、つじつまのあうことがどんどんわかるのだ。例えば、川。
古い写真には川が写ってない。と思ったけれど、写真の手前をよく見てみると、欄干のない橋のようになっている。
いちばん手前、橋っぽい
擁壁も、遠目にもういちど確認してみると、まさにそういう形であることが確認できる。
ほら
ブロックと擁壁の形が、そっくりなのだ。
つまり、この景色をなんども見たつもりになっていたのに、実は何も見てなかったのだ。
目が節穴とはまさにこのこと。なにに謝ってよいのやらわからないが、とりあえず謝罪しておきたい。申し訳ない。
言われてみれば、そのとおり
最初の直感でここかな? と言い当てた宮田さんはすごい。しかし「正解がそんなに簡単に見つかるものなのだろうか?」という、「正解は苦労をしてやっと見つけるものだ」という「苦労をせにゃならぬバイアス」が働き、観察眼を曇らせてしまった。擁壁やブロックの形なんかは、最初に見えていたはずなのに。である。
ほんとうにつきなみな感想で申し訳ないのだが、ものごとを観察する力がまだまだだとという教訓を得た。
次回は、並んだ橋脚を求めて、モノレールを行ったり来たりする「岩山」「北関東っぽい場所」です。