前回は、鎌倉時代の北条執権屋敷跡の宝戒寺を訪ねた。『鎌倉殿の13人』の中心舞台とも言える場所であった。今回は、『鎌倉殿の13人』の主人公・北条義時の墓などを訪ねることにする。
宝戒寺の門前からバス通りを北東に少し歩くと、信号のある交差点の角に「筋替橋」と記された石碑が立っているが、橋は見当たらない。道に対して斜めに架かっていたという「筋替橋」は、江戸時代に観光名所として選ばれた「鎌倉十橋」の1つだったが、現在は暗渠となり、橋は消滅しているのである。
「筋替橋」の案内碑
「筋替橋」の石碑のところから路地に入り、道標に従って「頼朝の墓」を目指す。その途中、清泉小学校の敷地の角に「大蔵幕府旧跡」という案内の石碑が立っているので、足を止めて見てみることにする。
「大蔵幕府旧跡」の案内碑
「大蔵幕府」とは何かと言えば、頼朝が屋敷を構えた場所である。頼朝が政権を樹立すると、頼朝屋敷は自然と政(まつりごと)が行われる場所になっていった。この頼朝屋敷で機能した政庁を場所の地名から「大蔵幕府」と呼んでいる。
ここで、なぜ「鎌倉幕府」旧跡ではなく、わざわざ「大蔵幕府」と呼ぶのか?という疑問がわくかもしれないが、これにも理由がある。
あまり知られてないと思われるが、およそ140年続いた鎌倉時代の間に、政治の中枢である政庁は、2度引っ越しが行われているのである。
鎌倉時代初期には、この場所(頼朝屋敷)に政庁が置かれたが、3代将軍・実朝の暗殺によって源氏の血筋が途絶え、また、頼朝の妻・政子が亡くなると、1225年、北条家へと権力が移ったことを誇示するかのように、北条執権邸に近い場所へと政庁の場所も移された。
現在、若宮大路と小町大路に挟まれた路地に面して、「宇都宮辻子幕府跡」「若宮大路幕府跡」という石碑が立っている。ぜひ探して見て欲しい(※)。
さて、話を『鎌倉殿の13人』に戻すと、「大蔵幕府旧跡」のすぐ北側の丘の上に、一般に「頼朝の墓」と呼ばれている石塔がある。わざわざ「と呼ばれている」と書いたのは、この石塔自体は江戸時代の薩摩の殿様(島津重豪)が立てたものであり、そこまで歴史が古いものではないからである。とはいえ、元々、この場所に頼朝の法華堂が建っていたのは間違いなく、頼朝の遺体が付近に埋葬されているものと考えられる。石塔の史跡としての価値に関わらず、やはり敬虔な気持ちでお参りしなければなるまい。
源頼朝の墓
そして、今回のメインの目的地である義時の法華堂跡は、この「頼朝の墓」の東隣の丘にある。
石段を下り、石段に向かって右手の細道を入っていくと、間もなく「島津忠久の墓」「大江広元の墓」「北条義時の墓」と道標が出ている。このうち、大江広元と北条義時が『鎌倉殿の13人』であることは、もう皆さんご承知の通りである。
道標に従い石段を上った先に、「史跡法華堂跡(源頼朝墓・北条義時墓)」という案内板がある。案内板には、この場所に義時が埋葬されたというのは『吾妻鏡』に記述されており、2005年に行われた発掘調査で建物跡が確認され、『吾妻鏡』の記述が裏付けされたとの説明がある。
義時法華堂跡
この案内版の奥の平場には、調査で発掘された建物跡の範囲を囲うロープが張られており、さらにその奥に見える鳥居をくぐり、石段を上った先に大江広元の墓がある。
大江広元は、『鎌倉殿の13人』の1人でもある兄の中原親能(ちかよし)とともに文官として幕政を支えた。兄弟で姓が違うのは、広元は公家の大江家の生まれであり、同じく公家の中原家に養子に出されたからである(広元も当初は中原姓を名乗っており、大江姓を名乗ったのは晩年になってから)。
実は、頼朝を最初から支えていたのは兄の親能のほうだったのだが、広元のほうが有名なのは、広元が幕府の政所別当(別当=長官)に就任し、頼朝の存命中から死後に至るまで幕府の屋台骨を支え続けた功績によるところが大きい。
ちなみに、広元の四男・毛利季光は相模国毛利庄(現在の厚木市)を領地とし、承久の乱の功で安芸国(現・広島県)吉田庄に領地を得て、やがてその子孫は、戦国大名の毛利氏となり、大発展を遂げる。
さらに、この戦国大名の毛利氏の子孫は、江戸時代には長州藩の殿様となり、明治維新期には、長州藩の藩士たちが薩摩藩と結んで、江戸幕府を終焉に導いた。
鎌倉幕府草創期に幕閣の宿老として「武士の世」を創り出した広元の子孫が、数百年の時を経て「武士の世」に引導を渡す役割を果たしたのには、歴史の皮肉を感じざるをえない。
大江広元の墓
さて、石段の上には、3つのやぐら(横穴式墳墓)がある。中央が広元、左が毛利氏始祖の季光、そして、右が島津氏の祖とされる島津忠久のものであるという。
※ 「宇都宮辻子幕府跡」と「若宮大路幕府跡」は距離が近く、2回引っ越しが行われたとみる説と、改築が行われたにすぎないとみる説がある。
【地図】
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