江の島への近道 湘南モノレール株式会社

#03 「鎌倉殿と十三人の御家人」のゆかりの史跡を訪ねる(深沢周辺を歩く)

 前回までは『鎌倉殿の13人』とは、そもそも何かについて話をしてきた。今回からは、『鎌倉殿の13人』ゆかりの史跡を巡るモデルコースを歩いていくことにする。
 それでは、湘南モノレール沿線から出発することにしよう、などと書くと、原稿料を払ってくれているモノレール会社に忖度していると思われるかもしれないが、実際にモノレール沿線から歩き始めると効率よく巡ることができるのである。

 まずは、大船駅からモノレールに乗車し、湘南モノレール㈱本社のある湘南深沢駅で下車する。
 深沢の街は、近年、変貌が著しい。1971年の湘南モノレール全通の年に営業開始して以来、地元の人たちに愛されてきたボウリング場「湘南ボウル」が建物の老朽化により、つい最近、閉店したほか、ボウリング場の建物1階にあった居酒屋チェーンや、通り沿いにあったラーメン店も姿を消すなど、商店街という意味では、寂しくなっている。
 一方で、長い間、遊休地だったJR鎌倉総合車両センター跡地等(約31.1ha)に、最近、「みんなの鳩サブレースタジアム」というサッカー場が出現した。

kamakuraden_03_01.jpg「みんなの鳩サブレースタジアム」

 この「みんなの鳩サブレースタジアム」は、この場所に計画されている街づくりが開始されるまでの、暫定利用という位置づけでのオープンとのだが、鎌倉を拠点に活動するサッカークラブ「鎌倉インテル」の練習拠点としてだけでなく、一般市民も利用できるということである。
 このサッカー場を見て、「なんとなく深沢の明るい将来が見えてきたな」と思う、地元の人は多いのではないか。サッカー場の向こうは、藤沢市の村岡地区だが、村岡には2032年を目途に、東海道線の新駅が設置されることも決まった。この先10年で、深沢の街並みはさらに大きな変貌を遂げるはずである。

 さて、この深沢付近一帯は、前述したとおり『鎌倉殿の13人』の1人、梶原景時の一族である梶原氏が領していた。現在も鎌倉市梶原という地名が残っており、モノレールの湘南深沢駅の辺りから、西は柏尾川の手前、東は源氏山公園の一部に至るまでの、かなり広範なエリアが「鎌倉市梶原」である。

 まずは、この梶原の鎮守である梶原の御霊神社に足を運んでみよう。道順が少し分かりづらいので、以下、写真で説明する。

 駅を出て100mほど先の「深沢小学校入口」交差点を左折し、その先に見えてくる深沢小学校の敷地に沿って進む。

kamakuraden_03_02.jpg「深沢小学校入口」交差点から、小学校に向かって歩いて行く

 新川の川縁に出るので、左へ川沿いに進む。

kamakuraden_03_03.jpg新川の川沿いの道

 その先に、小学校の敷地に沿って入っていく、細い路地がある。この路地を抜けると、左手の小学校東門前に御霊神社の参道入口がある。

kamakuraden_03_04.jpg路地の入口

kamakuraden_03_05.jpg梶原の御霊神社

 さて、この神社に祀られているのは誰かといえば、「梶原一族の祖」とされる鎌倉権五郎景政という人物である。「権五郎」というのは、鎌倉市民であれば馴染みのある名前ではないだろうか。そう、坂の下の御霊神社の別名は権五郎神社であり、神社の門前の菓子店では「権五郎力餅」が売られている、あの権五郎である。
 権五郎景政は、「武士之長者」として名高い源義家(1039-1106年 頼朝の先祖)に従い、奥州の後三年の役(1083―1087年)に参戦し、敵に右目を矢で射貫かれながらも勇猛に戦ったというエピソードが伝わる英雄であり、また、大庭御厨(おおばみくりや)という現在の藤沢市、茅ヶ崎市にまたがる広大な荘園を開墾したことでも知られている。
 この権五郎景政が梶原景時の曾祖父であり、さらにその家系の源流をずっと遡っていくと、桓武天皇(在位:781~806)にまでたどり着く。梶原氏は、いわゆる桓武平氏の家系なのである。

kamakuraden_03_06.jpg神社の由緒が書かれた案内碑には、この神社は1190年に景時によって建立されたとある

 ここで、桓武平氏とは何かについても、若干説明を加えておくと、桓武天皇の曾孫(ひまご)の高望王が臣下の身分に下り、「平」という姓を賜ったのが平氏の始まりである。高望王は上総介(かずさのすけ)という、今でいうところの千葉県副知事のような役職に任じられ、子の国香・良兼・良将らとともに板東(関東)の地に土着し、「板東平氏」と呼ばれる一族の祖先となった。
 この板東平氏の中には、その名をよく知られる者として、承平天慶の乱を引き起こした平将門(良将の子)がいる。また、都で栄華を誇った平清盛を輩出した伊勢平氏も、元をたどれば国香の孫の維衡(これひら)の流れをくむ一族である。つまり、皆、遠い親戚関係にあるのだ。

 さて、『尊卑分脈』という系図で梶原氏の位置づけを確認すると、高望王の子、平良茂の子孫として「景正」の名があり、さらに「景正」の曾孫として「景時」の名が見られる。また、石橋山合戦で頼朝と戦った大庭景親は、景時の従兄弟となっている。
 ただし、他の系図を見ると、「景政」は平良文という高望王の別の子の子孫、「景時」は景政の子孫ではなく別の系譜に位置づけられているなど、系図によって書かれていることがまちまちであり、どれが本当かは実のところ分からない。
 一応ここでは、神社の由緒書きにある通り、景時が、偉大なご先祖様である景政の霊を祀ったのが、この梶原の御霊神社であると理解しておきたい。

【地図】
https://www.google.com/maps/d/edit?mid=1ELCW2J6nG2U5G1OxoIcexyU2oSXR11xv&usp=sharing

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森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)
フリージャーナリスト。
現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。テレビ・ラジオにも多数出演。過去にNHK学園、玉川高島屋カルチャーにて鎌倉散策講座の講師を担当。2020年1月には、初の小説作品『ホワイト・ライオン』(幻冬舎)を上梓し、各種メディアで取り上げられる。その後、コロナ禍の中「湘南モノレール全線開通50周年記念誌」の執筆・編集にも取り組んだ。
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