湘南深沢駅を出ると、深沢車庫への分岐を経て、藤沢と長谷の大仏方面を結ぶ県道上空を鎌倉山に向けて登坂する。この上り坂のこう配66‰(パーミル)という数値は、国鉄の最難所として知られた信越本線の碓氷(うすい)峠とちょうど同じ数値になる。
深沢から鎌倉山方面への登り口付近にあった京急道路の料金徴収ゲート
信越本線では、電気機関車が重連(2両連結)で客車を引っ張っていたのに、なぜ、モノレールは同じ角度の坂をスイスイ登れるのだろうか? それは、線路が箱状の桁に覆われているので雪や雨の影響を受けないこと、ゴムタイヤなのでグリップが効くこと、軌道面(走行面)にもグリップを得やすい素材(合成樹脂のレジンファルト舗装)を用いているからである。
この坂を登っていくと、中腹に東京電力の66,000Vの高圧線が通っており、そのほぼ直下に変電所が設置された。この変電所の付近からモノレール路線は京急道路と分かれて、451mの直線トンネル内をこう配32‰で下っていく。
鎌倉山の区間をトンネルにした理由は、急こう配と急カーブが続く京急道路の線形上の問題や、「桜並木を切られ、風致を害する」と住民からの反対があったことによるが、トンネルにしたからこそ長い直線を確保でき、路線中の最高速度である時速約75kmでの走行が可能になった。湘南モノレールが「江の島への近道」と言うことができるのは、このトンネルのおかげでもあるのだ。
のどかな田園風景が広がる「赤羽」交差点付近
西鎌倉駅周辺のモノレールの線路は、あたかもこの地の伝説に登場する龍神のようだ
トンネルを抜けると半径300m曲線を74‰のこう配で下り、大船-腰越を結ぶ県道をクロスして、さらに半径150mの曲線を通って、開業時の終点駅である西鎌倉駅に入線する。鎌倉山トンネルの出口付近から、西鎌倉駅に向かって右へ左へと曲線を描くモノレールの線路は、この地の伝説に登場する、江の島の弁財天に恋をした龍神(五頭龍 ※)の姿を思わせる。
なお、県道を介して1kmほどの距離があるが、「鎖大師」として知られる名刹、青蓮寺(しょうれんじ)は西鎌倉駅が最寄り駅となる。
※ 昔、深沢の湖に住み、天変地異を起こし、村の子どもを生け贄として食らうなど悪行を重ねていた5つの頭を持つ龍(五頭龍)が、あるとき、江の島に舞い降りた天女に恋心を抱き、求婚する。しかし、「悪行を止めるまでは」と天女に諭され、心を入れ替えた龍は、これまでとは逆に自然災害から村人たちを守るようになる。やがて力尽き、山(龍口山)に姿を変えた龍は、五頭龍大神として龍口明神社にまつられ、60年に一度の江島神社の大祭の際には、故事にちなみ、五頭龍(夫)の神輿が江の島弁財天(妻)の下へ渡御する習わしとなっている。