湘南モノレール路線の土木工事中、最難関だったのが、目白山下駅と湘南江の島駅の間にある片瀬山トンネル(205m)の掘削工事だった。前述した通り、この山の地主である本蓮寺、常立寺から、本堂や墓地を見下ろす位置をモノレールが走行するのは困るとの話があり、トンネルとせざるを得なくなったのである。
この片瀬山トンネルの工事の様子も、ビデオに残されているので、見てみることにしよう。
【ビデオ音声】
終点、江の島駅手前の片瀬トンネル。ここでは、工期短縮のために全断面を掘削して、直ちにコンクリートを打っていく工法が採用された。
このトンネルは、普通の鉄道では考えられない74/1000の急こう配を持っている。
懸垂型モノレールは、こうしたこう配も易々と征服する。
工事は極めて順調に進んでいる。
ビデオでは「工事は極めて順調に進んでいる」と解説されているが、実際には、そう簡単な工事ではなかった。
まず、江の島方面に向かってトンネルを掘り進めようとすると、左側には日蓮法難の地として有名な龍口寺、右側には本蓮寺、常立寺があり、ギリギリのところを通さなければならない。トンネルをやっと通せるところを数ヶ所、ボーリング調査してみたところ、土被り(トンネル上端から地表面までの厚さ)が5~10m程度しかなく、地盤もかなり複雑で難しい工事になるという結果だった。しかも、普通の鉄道では考えられない、江の島側に向かって74‰(パーミル)の急こう配で下るトンネルとなるのである。
とはいえ、工事そのものは不可能ではないとの結論に達し、掘り進めたところ、トンネル底面の下には思いがけず戦時中に海軍が構築した地下壕が至るところにあり、関係者を探し出して図面によって坑道の位置を確かめ、トンネルの路盤強度に支障が出ないようコンクリートを詰め込んだ。
片瀬山トンネル貫通の瞬間
また、トンネル出口部分は、大きな岩盤そのものに亀裂が入っているのが見つかった。土地の古老に聞くと、どうやら関東大震災の折に、崩れた場所であるとのことであった。国鉄鉄道技術研究所の専門家に見てもらい、岩を取り除いたり、亀裂にコンクリートを注入したりして、関東大震災と同程度の地震があっても心配ないように、当初の計画以上に頑丈な擁壁を構築した。
片瀬山トンネルの掘削工法は工期短縮のため、全断面を掘削して、ただちにコンクリートを打っていく全断面掘削工法を採用した。また、74‰のこう配では、土砂を搬出するのにレールを用いるトロッコでは危険なので小型トラックを使用した。
こうして、片瀬山トンネルの掘削工事は、1970年11月に着手し、1971年4月に完了した。
鎌倉山トンネルと片瀬山トンネルの工法の違い
工法 | 土砂の搬出方法 | |
鎌倉山トンネル | まずは底に導坑を掘り、切り広げていく導坑先進工法を採用 | トンネル掘削工事用機関車が牽引するトロッコを使用 |
片瀬山トンネル | 工期短縮のため、全断面を掘削して、ただちにコンクリートを打っていく全断面掘削工法を採用 | 急こう配のため、レールを用いるトロッコでは危険なので、小型トラックを使用 |