さて、世界的にも珍しい懸垂型モノレールの実用線として華々しいデビューを果たした湘南モノレールであるが、営業初日の1970年3月7日に、朝からポイント(※)故障によるトラブルに見舞われた。その様子を翌3月8日付の神奈川新聞が、下記のように報じている。
"空中をすべるような、軽快な乗りごこち"―のキャッチフレーズで七日からさっそうとデビューした大船~西鎌倉間(四・八キロ)を走る懸垂式の湘南モノレールは、初日から故障が起き、朝のラッシュ時に上下線とも三十本が運休した。乗客は大船駅にどなり込むやら、払い戻しをしたり、故障の原因追及にてんやわんや。さんざんなスタートだった。モノレールの大船駅始発は朝五時五十五分、通勤客らを乗せて快調にすべり出したまではよかったが、西鎌倉駅を折り返して富士見町駅に向かったところ、同駅の転てつ機が故障していたため、バックして町屋駅で乗客を下車させ、同朝七時五十四分までのラッシュ時に上下線合わせて三十本が運休。(中略)同モノレール会社の調べでは、原因は富士見町駅にある転てつ機の油圧の蓄圧そうのなかに雨水がはいり、油圧が弱まってポイントが故障したものらしいという。二月十四日から万全を期して試運転を続け、各部門の点検、改良整備をしてきたが、初日からのトラブルに、会社側は渋い顔をしていた。
開業当時の富士見町駅
ちなみに、営業開始から1年後の1971年7月の全通時に、三木忠直技師長が、「1車月平均6,000km、1年で約70,000km走ったが、車両故障では継電器箱の孔(あな)に蜂が入って絶縁不良を起こしたことがあったきり、運転事故はない」とメディアの取材に対して話していることから、その後は目立ったトラブルはなかった模様である。
※ ポイントの動力に電気ではなく油圧が選ばれた理由は、「電気か油圧か検討したが三菱重工名古屋機器製作所で飛行機用としての経験が深いし、油圧式のほうが作動が滑かで電気式の様に桁上の作動リンク装置も不要である等利点もあるので油圧式を選んだ」(三木技師長)との記録がある。