さて、前述したように、湘南モノレール発起人代表が、運輸大臣宛に鉄道敷設免許申請書を提出したのは1964年9月11日付であるが、免許交付までには、その後、ずいぶんと時間がかかった。問題になったのは、湘南モノレールが、主に道路上空に建設されるという点だった。
具体的に何が問題なのかを把握するために、地方鉄道法(当時)の条文を見てみると、第4条が道路上への鉄道の建設を原則として禁じているのが分かる。
地方鉄道法第4条
(旧字体、旧仮名遣いは筆者が新字体、新仮名遣いに変換)
第四条 地方鉄道は之を道路に敷設することを得ず。ただしやむことを得ざる場合において主務大臣の許可を受けたるときはこの限りあらず
簡単に言えば、「鉄道は道路上に敷設してはならず、専用軌道に敷設しなければならない。ただし、やむを得ない事情がある場合において、建設大臣の許可を受けたときは道路上に敷設することもできる」ということである。鉄道の敷設は、本来、運輸大臣の許可だけでいいのだが(運輸省専管)、道路上に敷設する場合は、別途、道路を管轄する建設大臣の許可も必要となるのだ。
湘南モノレールに先行して建設された東京モノレールは用地買収の困難と、この地方鉄道法の制約を回避するために、陸上を避けて主に京浜運河上に路線を建設した。その結果、東京湾の地質が非常に悪かったことと海上工事という悪条件が相まって、最終的な建設費が211億円(1kmあたり16億円)にも上ったのである。
建設中の東京モノレール。沈埋函工法による海老取川河口トンネル工事(提供:東京モノレール株式会社)
東京モノレール車両の搬入(提供:東京モノレール株式会社)
この点、湘南モノレールの場合は道路上に建設するとはいっても、京急道路は京急電鉄が所有する「私道」であり、地方鉄道法が規定する「道路」、つまり「公道」ではないので問題にはならないだろうと、当初は思われていた。
ところが、調査を進めるうちに、京急道路は単なる私道ではなく、道路運送法に規定された一般自動車道の許可を受けており、運輸省自動車局と建設省道路局の共管になっていることが明らかになった。もし、仮に京急道路が「公道」であるとなれば、地方鉄道法4条の制約に引っかかることになる。
京急道路の料金徴収所(大船)
それならば、「軌道は(中略)道路に敷設すべし」とする軌道法(主に路面電車の敷設を想定した法律)による敷設も考えられるが、運輸省は建設省との共管を嫌って軌道法によるモノレールの免許を認めようとしなかった。
地方鉄道法と軌道法
地方鉄道法(運輸省専管)......専用軌道(道路外)で運行する鉄道を規定
軌道法(運輸省・建設省共管)......道路上の軌道で運行する主に路面電車を規定