江の島への近道 湘南モノレール株式会社

#04 日本のモノレール第1号は、どの路線か?(後編)

 戦後になると、1951年に、豊島園に懸垂型モノレールが登場している。このモノレールは直径60mの円形線路を平均時速7.5kmで走行するもので、やはり子ども用の遊戯物として設置されたものだったが、「空飛ぶ電車」として報道され、人気を博したという。設計したのは、小田急ロマンスカーや新幹線車両の設計に重要な役割を果たし、のちに湘南モノレールの常務取締役・技師長も務めた三木忠直氏であり、優れた技術が使われていた。


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豊島園の「空飛ぶ電車」(提供:株式会社西武園ゆうえんち)

 地方鉄道法に基づく鉄道路線として最初に建設されたモノレールは東京都交通局による、いわゆる上野動物園モノレール(正式名:上野懸垂線)で、1957年12月に運行が開始されている。
 上野懸垂線が建設された経緯については、『東京都交通局50年史』(東京都交通局 1961年)に、「都内の路面交通の緩和策として懸垂電車の試験的建設が昭和31(1956)年7月3日庁議によって決定され、上野動物園内に建設されることになった」と記されている。
 当時は、東京都内の自動車台数が、1952年の13万台から、1955年には24万台、1960年には61万台と急激に増えていた時期(※)であり、同資料には「道路交通法に、軌道敷内を通行してはならないと規定されてはいるものの無差別に通行されている実情にある」との記述が見られるなど、これまで都市交通の王座の地位にあった路面電車(都電)と自動車の共存が、困難になりつつあった状況が見て取れる。


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現在は運行休止中の上野懸垂線(提供:PIXTA)

 こうした中で、路面電車に代わる新時代の都市交通として、1958年8月、東京都交通局は都営地下鉄1号線(現・都営浅草線)の建設に着手したが、地下鉄建設には巨額の費用(浅草線は1kmあたり45.3億円)が必要とされることから、その対象を幹線交通路に絞らざるを得なかった。こうした事情から、地下鉄を建設するほどの需要が見込めない路線(都心から放射線状に伸びる国電、私鉄、地下鉄などを有機的に結合する環状路線や地方都市の交通など)の新たな交通手段として、建設費が低廉なモノレールが期待されたのである。
 さて、ここで日本のモノレール第1号がどの路線かを一応、結論付けたい。候補としては大阪の交通電気博覧会のモノレール、豊島園モノレール、上野懸垂線が考えられるが、路線の持続性や正式に地方鉄道法免許によっていることなどから、上野懸垂線と見るのが妥当であろう。

トピック 豊島園モノレールはレールプレーン構想から誕生
 三木忠直氏は、戦前は、海軍で航空機の設計・研究に従事し、戦後に勤務した国鉄系の鉄道技術研究所(現・鉄道総合技術研究所)での研究構想の1つが、1本のレールから吊り下げられた車両が飛行機のようにプロペラで推進する「レールプレーン」と呼ばれるものだった。
 時速250kmで東京-大阪を2時間半で結ぶレールプレーン構想について報じた新聞記事を見た西武鉄道が、レールプレーンを小型化した子ども用の乗り物を豊島園に設置したいと鉄道技術研究所に打診。高速で走行すると危険なのでプロペラ推進を車輪駆動に変更した懸垂型モノレールが誕生したのである。このモノレールは、その構造からヴッパータール空中鉄道(ランゲン式)に、そのルーツを求めることができる。

※数値は警視庁交通年鑑による。

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森川天喜
フリージャーナリスト。
現在、大磯町観光協会副会長、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。テレビ・ラジオにも多数出演。過去にNHK学園、玉川高島屋カルチャーにて鎌倉散策講座の講師を担当。2020年1月には、初の小説作品『ホワイト・ライオン』(幻冬舎)を上梓し、各種メディアで取り上げられる。その後、コロナ禍の中「湘南モノレール全線開通50周年記念誌」の執筆・編集にも取り組んだ。
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