モノレールの営業線で現存する最古の路線は、1901年3月に営業開始したドイツのヴッパータール空中鉄道であり、ドイツ人技師のカール・オイゲン・ランゲンが開発した鋼鉄レール・鋼鉄車輪の懸垂型モノレールの技術(ランゲン式)を採用している。
ヴッパータール(※)という国際的にはそれほど名が知られていない都市にモノレールが建設された理由の1つは、地形上の制約にあった。同市はルール工業地帯に属し、19世紀末には道路交通がかなり混雑するようになっていたため、これと分離した高速交通機関の建設が望まれた。
しかし、ヴッパータールの市街地は、ライン川の一支流であるヴッパー川沿いの狭い谷間に広がっており、新たな鉄道用地を確保するのが困難だった。そこで活用することになったのが、ヴッパー川上空の空間である。ヴッパータール空中鉄道は、その路線の大部分がヴッパー川の上空に建設されている。
ヴッパータール空中鉄道©WSW-Vohwinkel Kaiserplatz um 1925-2
ヴッパータールにモノレールが建設されたもう1つの理由は、建設費が安かったことである。1873年に、ヴッパータールと同じくドイツ西部に位置するザールラントに、後にヨーロッパ最大の製鉄所と言われるようになるフェルクリンゲン製鉄所(1994年にユネスコ世界遺産登録)が建設されたことからも分かるように、当時は鋼鉄の生産が盛んになり、建設資材としての鋼鉄を安くふんだんに使うことができたのである。
このヴッパータールのモノレールが建設されてから、その後の半世紀の間は、実験的なものを除いて、世界中のどこにも本格的なモノレールが建設されることはなかった。その理由は、1本レールのモノレールよりも、より安定性の高い2本レールの通常の鉄道が敷設できるのであれば、あえてモノレールを建設する理由がなかったことや、自動車輸送の隆盛があった。
ところが、戦後の高度経済成長期に、諸外国と比べて道路の許容量の面で十分とは言いがたい我が国において、自動車の激増によって麻痺寸前に追い込まれた都市交通の解決策として、下記の理由からモノレールが再び脚光を浴びるようになったのである。
- 都市の街路上空のスペースが有効活用でき、スリムな構造のため都市の美観を害さない
- ゴムタイヤ駆動等の新技術により低公害(低騒音・低振動)で運行可能である
- ほかの交通機関とは立体交差になるため、衝突の危険が極めて少なく、安全性の観点で優れている
- 地下鉄と比べて建設費が安価(地下鉄の1/3~1/4)で工期も短くて済む。また、バスに比べると輸送量が大きく定時運行が可能
トピック ヴッパータール空中鉄道と「姉妹懸垂式モノレール協定」締結
湘南モノレールは、2018年9月13日、ヴッパータール空中鉄道と「姉妹懸垂式モノレール協定」を締結した。120年前の1898年9月13日に初めて試験走行が行われたことを祝し、本協定の締結日を9月13日とした。
現在、ヴッパータール空中鉄道は全20駅、営業距離13.3km(うち、10.5kmがヴッパー川上空に架設されている)、複線、所要時間30分で運行されており、2017年の年間乗降客数は約2千4百万人である。
※ ヴッパータール市は、ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州の州都デュッセルドルフの東に位置する人口約35万人(2019年現在)の中都市である。エルバーフェルト、バルメンなど複数の都市が合併して1930年に誕生した。