午後3時、『盛華園』に伺うと、休憩時間に入ったご主人の早坂定幸さんが遅い昼食を食べようとしているところだった。
「ごめん、すぐ終わるからね」
僕が感激したのは、それがラーメンだったからだ。自分の店で出すメニューを店主が食べているのである。ここが繁盛するのはあたり前だと思った。
西鎌倉に『盛華園』がオープンしたのは2000年のこと。それ以前は別の場所でやっていたらしい。息子二人の子育てが落ち着き、自宅を建てる際に移転したのだそうだ。修行はどこでされたんですか?
「基礎を学んだのは材木座にある兄の店で5年、そのあと中華街で2年ぐらいかな。私は1950年、宮城県の生まれで、中学卒業後に集団就職で上京したんですよ。最初はバネ工場で働いたんですが、合わなくて。一足先に上京していた兄貴が独立して店を持ったので、手伝えって言われて材木座にきたのが鎌倉との出会いになりました。最初の頃は兄弟でがんばって、自分の店を持ったのが1974年だったかな、24歳のとき」
20代なかばでの独立だが、すでにキャリアは9年あった。いや、それにしても早い。僕なんて、やっと社会人になったのが24歳である。就職もせず、これからどうしようと悩んでいた年代に、早坂さんは一国一城の主になったのだ。
戦後に誕生し、昭和20年代後半から店が増え始めた町中華は、高度成長の波に乗って全国に広がり、'70年代には修業を終えた職人たちが次々に独立をしていく時期にあたる。
当時と今では味に変化があるのだろうか。
「やっぱり昔は塩分が多かったよね。スープなんかも工夫を重ねて自分なりの味に仕上げていきました。でもまあ、よく働いたよ。店も出前も自分でやってたから、お客さんほったらかしで届けに行っちゃう、ははは。西鎌倉へきてからは、少しマイペースでやるようにはなったかな。楽しみ? カラオケかな。このあたりの店はみんな顔なじみになってますよ」
上京して54年、中華一筋、真面目にやってきたご褒美は、息子が後を継ぐ決心をしてくれたことだという。
「孫が3人いるし、お客さんとも仲がいいし、店にも立つけど気楽な立場でしょ。いまが最高に幸せだね」
幸せな現在を築く上で土台となったのが、大船という土地柄であるのは言うまでもない。いやー、最後にイイ話を聞くことができ、僕の胸まで熱くなった。
ただ、早坂さんは我々がさっき食べたメニューには少々不満があるようだ。
「よそじゃあまりない味ってことになるとバラ肉そばかな。カレー味のパイコーメンも人気あるよ!」
とのこと。ひとりで行ったら、厨房が丸見えのカウンター席に座ることを強くおすすめし、大船アタックを終わります!
●盛華園
営業時間 11時~21時(15時~17時休憩)
定休日 火曜日
住所 鎌倉市西鎌倉1丁目20-16
電話 0467-31-7061