江の島への近道 湘南モノレール株式会社

その2 暗渠アトラクションとしての湘南モノレール

暗渠マニアックス 髙山英男

■きらきら江の島に向かう西高東低路線?
多くの人にとって江の島は「きらきらした場所」なのではないだろうか。私が学生時代にいた音楽サークルでは、世田谷での定期コンサートが終わるとなぜか、毎回吸い寄せられるように大勢で江の島まで繰り出し、海岸できゃっきゃしながらそのまま朝まで夜明かしをして青春したものだ。眠くて寒くてくたびれていたはずなのに、そんなことをすっかり忘れさせるくらいきらきらした場所だったのだ。それは30年も前の話だけど、きっと今でもきらきらしてるに違いない。 そんな江の島への近道、というのが湘南モノレールのウリである。大船と江の島を一直線につなぐこの路線は、もちろん平日は地域の日常を支える大事なインフラだろうけど、休日ともなればおそらく、大船からきらきら江の島が待つ西(南)へと向かうヨソモノで溢れるはずだ。そんな観光客から見ればこの路線イメージは、「西高東低」といったところであろう。

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【図1】湘南モノレールをざっくり二つに分けると地形的にも「西高東低」。きらきらな江の島方面はイメージだけでなく標高も高い。(「地理院地図」を「カシミール3D」を使って加工)

 しかし。暗渠目線でみるならば、世界は全く逆となる。そう、湘南モノレールは圧倒的な「東高西低」なのである。暗渠的に。

■レア暗渠アイテムで始まる歓喜の大船駅
 初めて湘南モノレールに乗った私が大船を出発してまず驚いたのは、眼下の駅前のバスターミナルに孤独にそそり立つ水門が見えたことだった。なんの水っ気もないところにいきなり水門である。


【図2】いつも独り湘南モノレールを見上げている、けなげな駅前水門。

 水門なんて、水路がなければ存在するはずのないものだし、また水路がなくなったのであれば無用の長物、当然即撤去であろう。こんなところに水門。これはつまり、ここには必ず暗渠があり、まだ地下に誇り高く水が流れているという動かぬ証拠だ。そんなレア暗渠アイテムに出発早々出会えるとは、湘南モノレールおそるべし、なのである。暗渠的に。
その後すぐに大船市街地の南端を流れる開渠(梅田川)に合流する美麗コンクリ蓋暗渠も見下ろせるのだが、これを含めた「大船駅前暗渠タウン」の詳細については次回に譲って先に進もう。

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【図3】車中から見下ろす「大船駅前暗渠ワールド」の一端。アパート前の道が、後に梅田川に合流するコンクリ蓋暗渠。この写真では私のときめきがわからないと思うが、次回はこの暗渠からモノレールを見上げてみたい。

■上から味わう「東高西低」の東エリア
横須賀線を越えて富士見町駅に着く手前にも、「暗渠かも⁉」という道をたて続けに2カ所確認。さらに富士見駅を出てすぐに2カ所がモノレールに交差しているのを見つけてまたわくわく。普段は地べたを歩いて暗渠探しをしているが、高いところ(しかも高すぎずしっかり暗渠が見えるちょーどいい高さ)からの暗渠探しがこんなにおもしろいとは。まさに神の視点から見る暗渠スケープ。愉しい。 そのあとの湘南町屋駅前後は、興奮しすぎた頭を冷やすにはちょうどいい区間だ。しばらく暗渠景観が鳴りを潜めるので、ここでいったん深呼吸して次のヤマ場に備えよう。 「富士塚小学校交差点」から湘南深沢駅を過ぎて山に向かう手前までの間がまさにクライマックス。あれも、これも、ああこっちもだ!と、しっかり思い出せるだけで6本もの暗渠に出会え、まるで暗渠の流星群を見下ろすようである。 その後、鎌倉山周辺の標高高めのエリアに入ると開渠(水面が見える水路や川)がちらほら見えるばかりとなり、終わってしまった花火大会のように暗渠景観はぱったりと途絶え、まさに冒頭に「暗渠的には東高西低」と述べた通りとなる。


【図4】まさに「東高西低」。東半分の大船寄りに集中する、モノレールから見下ろしてすぐにわかる暗渠。もっとあるかもしれないからぜひ乗車して探してみていただきたい。

とはいえ大船まで東半分に限っての、心ときめく暗渠景観は素晴らしい。湘南モノレールは交通機関であるとともに、実は「暗渠クエストアトラクション」なのではないか。湘南深沢以東は、見下ろして吉。このわくわくぜひ多くの人に味わっていただきたい。

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吉村生
本業の傍ら暗渠探索に勤しみ、暗渠のツアーガイドや講演なども行う。郷土史を中心とした細かい情報を積み重ね、じっくりと掘り下げていく手法で暗渠の持つものがたりに耳を傾ける。共著に『暗渠マニアック!』(柏書房)、『はじめての暗渠散歩』(ちくま文庫)、分担執筆に『東京「暗渠」散歩』(洋泉社)、『東京スリバチ地形入門』(イースト新書Q)等。東京人等の雑誌にも寄稿。
・ブログ:暗渠さんぽ
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髙山英男
『暗渠マニアック!』(柏書房)、『はじめての暗渠散歩』(ちくま文庫)共著、『東京「暗渠」散歩』(洋泉社)『東京スリバチ地形入門』(イースト新書Q )などに寄稿。
ある日「自分の心の中にある暗渠」に気付いた時から暗渠に夢中に。以来、暗渠を求め、暗渠を分析し、そこに水の流れを感じることは、自分の知らない自分を探究することだと位置づけるようになる。
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