『盛華園』で我々が注文したのは、たまごチャーハン、ニラとじラーメン、餃子。
「これだけですか? 私、もっと食べる自信ありますけど!」
わかる。でも石川さん、キミは僕と宮田さんがこのあと大船に戻ってもう一軒行くことを考え、思い切り腰が引けているのを知らないのだ。
厨房を覗くと、ご主人が中華鍋を振っている最中だった。手付きが軽やかで無駄がない。これは年季が入っている。
やがて運ばれてきた料理は、予想通りのおいしさだった。全体的に抑えめの味付けなので最後まで飽きが来ない。とくにチャーハンは優しい口当たりで、半チャンラーメンが絶対に旨いと思わせる。早食いの宮田さんにつられ、あっという間に完食。
味よし、雰囲気良し、値段も手頃とあってはぜひ紹介したくなる。しかし、話を聞こうにも入れ替わりで客が入ってきて、ご主人も女将さんも手が離せそうにない。カウンターに座るのは単身客。作業着姿の人や営業マンらしき人、何十年も通っていそうなおじさんなど、この店の味を支えてきた面々なのだろう。絵になる光景だなあ。むやみに話し込むのではなく、沈黙を保つのでもなく、ちょうどいい距離感が保たれている。
会計時に取材を申し込み、店が空く午後3時にまたくると伝え、いったん大船に戻ることにした。もう一度、湘南モノレール名物の"急下り"を楽しめると思うとそれも悪くない。
が、ここで石川さんからショックな発言が。午後1時から別件が入っているというのだ。あと30分しかない。
「じゃあ、残り時間で前回の大船アタックで触れられていなかったお店を案内しますね。『来来』という評判のいい店です」
遠目に見てラーメン屋だと判断したところだったが、なるほど、麺類を主軸としつつもニラレバ炒めや麻婆丼、チャーハンもある。気になったのは、レバーとキャベツのあんかけと説明書きのあるレバ丼。いますぐ入れば石川さんも参加できると盛り上がったが、あいにく満員。食べものが運ばれてくる前にタイムアップになりそうだ。
「残念...です。では最後にもう一軒、『石狩亭』に行きましょう。私はそこで去りますが...去りますが」
『石狩亭』は見るからに活気のありそうな店で、王道の中華メニューはもちろん、カレーなども備える店。深夜まで営業しているので、大船っ子にとっては"飲み中華"の役割も果たし、よそで飲んだ後にここで最後の一杯をやったり、締めのラーメンに舌鼓を打つのだという。
「それでは私、そろそろ行きます」
悔しさしか表れていないその顔を見て、宮田さんが英断を下した。
「別件って1時間もあれば終わりますよね。『盛華園』で食べた分がまだこなれていないから、どこかで休んでお待ちしていますよ」