前回、夏の日差しを浴びながら大船アタックを敢行。『味喜』と『中華でぶそば』でサンマーメンや炒飯に食らいついてみた。しかし、僕としてはこの戦い、いやこのアタックに満足できたわけではなかった。むしろ反省だらけだ。大船、想像以上に手強い相手だったのである。
大船町には43,094人(推計人口、2018年1月1日現在)の人が暮らしていて、大船駅周辺には飲み屋や食事処が密集。中華関係も充実しているのだ。本格的な中国料理店やラーメン専門店まで含めると15軒はありそう。町中華に限っても5~6軒は確認できた。年々数を減らす町中華界にあって、この密度の高さは大健闘の部類だろう。
にもかかわらず、私と宮田編集長が訪れたのは2軒のみ。これで大船を攻めきったことになるのか。否である。むしろ全然足りないのである。再度のアタックを試みることは町中華探検隊隊長として当然の責務であった。
「おっと、動き出しましたよ!」
モノレールが大船駅から滑り出すと一瞬我を忘れてはしゃぎ声を出してしまう。乗り慣れている宮田さんはわずかに頬を緩ませるだけだが、今回助っ人として参加していただいた湘南モノレール広報課の石川育代さんはニッコリ笑って「全国でも数少ないぶらさがり移動をお楽しみください」と初心者に優しい。しかも、ただの付き添いではなく、オヤジふたりでは心もとない町中華探検をサポートするための参加である。昨夜は遅くまで新橋で飲んでいたという。胃袋には自信を持っているようだ。
我々が向かっているのは西鎌倉駅。事前の調査で、このエリアにも2軒の町中華があることを発見していた。しかし、なぜ終点でもない西鎌倉駅に。その答えは駅前に出るとすぐわかった。腰越と大船を結ぶ腰越大船線(神奈川県道304号)がすぐ近くを通っているのだ。こういう場所に出店すれば、住人に加えドライバー需要が見込める。
腰越方面に歩くこと数分で、新鎌倉山交差点についた。石川さんによれば、この界隈は人気のイタリアン『フォセッタ』があるなど、沿線でも注目のエリアとのこと。その一角には台湾中華の『満漢亭』が建っていた。旨そうだな~と思ったけど、ここは町中華じゃないので心を鬼にしてパス。さらにズンズン歩を進め、若干寂しくなってきたと思うあたりに3階建ての建物が見えてきた。西鎌倉町中華、一方の雄『一番』である。
それにしても真っ赤だ。のれんや看板より先に建物が目に入る。赤は町中華を象徴する色なんだけど、ここまで前面に押し出した店に出会ったのは初めてだ。なぜこうなっているのか。それはこの場所が大船方面からくると大きなカーブを曲がってすぐのところにあるからだと思う。「ここで食べていくかな」と思ってもらうためには目立つ必要があるのだ。のれんや看板だけではその役が十分に果たせないのでこうなったのではないだろうか。
駅に引き返し、逆方向に進むこと2分でもう一軒の『盛華園』が見えてきた。時刻は午前11時半。朝食をしっかり食べてきた宮田さんも、歩き回って腹がこなれてきたようだ。よし、入ろう。
「いらっしゃいませ。テーブル席へどうぞ」
女将さんに声をかけられ着席。壁には品書きがなく、テーブルに置かれたメニューから選ぶ方式だ。驚いたのはその多彩さだった。こじんまりとした店なのに、半チャンラーメンから一品料理まで幅広く揃っている。添えられた写真はどれも旨そうだし、この時間からカウンター席が埋まっているのは常連が多い証拠だ。
この店、できる。気を引き締めて挑まなければ......。