湘南モノレールの「湘南江の島」駅から東へ150メートルほど歩くと、江ノ電が横切る大きな交差点に面して、立派な仁王門が現れる。
日蓮宗の名刹寂光山龍口寺である。
知ってましたか、龍口寺?
(撮影:宮田珠己)
鎌倉へ寺社観光に行こうと思ったとき、鶴岡八幡宮や鎌倉大仏や長谷観音のことを思い浮かべる人は多いと思うが、龍口寺はどうだろう。少し詳しい人なら、建長寺や銭洗弁天、さらに東慶寺なんて名前を口にする人もあるだろうけれど、龍口寺は知らないのではあるまいか。
日蓮上人に詳しい人は、そこが日蓮4大法難の地であることは知っているにちがいない。日蓮上人は、鎌倉幕府によって龍ノ口刑場で危うく斬首されるところだったのである。
鎌倉時代後期、蒙古の襲来や、飢饉、疾病の蔓延などを憂い『立正安国論』を奏上した日蓮上人に対し、幕府はこれを中傷と受け止め、幕閣による評定を経ることなく、上人を刑場へと連行した。そうして翌日の深夜、上人を土牢から引き出し、敷皮石に座らせて斬首の準備を整えていたのだ。
このとき日蓮上人は「法華経の行者として法華経に命を捧げることはむしろ喜びである」と泰然自若としていたとお寺のパンフレットには記されている。
ところがまさに斬首されようかというとき、江の島の方から満月のような光るものが飛んできて、首切り役人の目をくらませたため、刑の執行を行うことができなかった。そしてちょうどそこへ幕府から処刑中止の使者が到着したのである。
詳細は各自調べていただきたいが、ともあれ日蓮上人はこの地で命拾いし、その後この龍ノ口刑場の跡地にできたのが龍口寺なのだ。
江の島の方から飛んできた満月のような光るものとは一体なんだったのか。それについては、本サイト「ソラdeブラーン」内の「ぶら喜利」で、井上マサキ氏率いるメンバーが推理しているので、そちらもご覧ください。
http://www.shonan-monorail.co.jp/sora_de_bra-n/2019/02/post-201.html
そんなわけで日蓮宗にとっては非常に重要なお寺である龍口寺だが、一般観光客にはまだまだ馴染みが薄いように思われる。
日蓮上人が閉じ込められていた土牢や、斬首のために座らされた敷皮石なども、さほど歴史に興味のない人は、わざわざ見に行こうと思わないかもしれない。
正直、私自身も歴史に詳しいわけではない。高校の日本史の授業は、出席日数ギリギリしか出ず、あとは部室でサボっていたぐらいの人間だ。日蓮上人の話を聞いても、それだけで見に行こうとは思わなかった。
しかし、たまたま用事で訪れたとき、龍口寺は実は見逃せないお寺だということを発見してしまったのである。
■ 鎌倉にたったひとつの五重塔
私に言わせれば、龍口寺の観光スポットとしての魅力は日蓮上人の聖跡のほかにもまだ4つある。
まずひとつ目は五重塔の存在である。
鎌倉の神社仏閣を巡ったことがある人は、あることに気づかなかっただろうか。鎌倉には、大仏や観音さまなどはあっても五重塔が見当たらないことに。
龍口寺は、鎌倉界隈で唯一五重塔を有するお寺だ。
山門を過ぎ、本堂を仰ぐとその右奥に木立に囲まれた立派な五重塔の姿を見ることが出来る。見目がいいので、古いものかと思ったら、まだ100年余しか経っていないそうだ。明治43年の竣工だそうだから歴史が深いとは言えないものの、神奈川県でも唯一の木造五重塔で、欅造り銅板葺きの堂々たる風格を漂わせている。
魅力のふたつ目は、金に輝く仏舎利塔と、そこからの眺めである。
私がまだこのあたりに不案内だったころ、湘南江の島駅周辺を散策していて、緑の森のなかからぽこんと頭を出す金色の物体を見つけ、いったいありゃなんだ? と驚いたことがあった。それが仏舎利塔と知ったあとも、あの山の上までどうやって行けばいいのか見当がつかず、しばらく謎のスポットして気になっていた。
行き方は、龍口寺の境内に入り、本堂の左手の階段を上るのだが、上ってみると金色の先端部の下は白い鏡餅のような形になっていて、エキゾチックなものだなと思ったのである。なんとなく日本ぽくない感じがするではないか。
そして仏舎利塔の位置からは、木々の隙間に相模湾を望むことができる。相模湾の眺望といえば長谷観音が有名だが、ここはもっと海に近い。
(撮影:宮田珠己)
この2つだけでも鎌倉散策に龍口寺を組み込んで損はないと思うが、私の考える龍口寺の真の魅力はこれだけではない。本題はここからである。