その店がモノレール駅からほど近い「味喜」と聞いても驚かなかった。
開店前から掃除に精を出していた店の一つだったのだ。ここは外観もいい。とりわけ看板の書体がザ・昭和な雰囲気だ。
と、入店してびっくり。開店早々なのにほぼ満席なのである。聞けば、準備が整いすぎて、それを察した常連客が開店前から入ってきてしまったとのこと。たぶんよくあることなのだろう。ご主人も客も、そんなこと気にしていないのが素晴らしい。
赤いカウンターと白いテーブル席のみの手頃なサイズ感。カドの上のほうにはお約束のテレビが置かれ、ワイドショーが流れる、教科書的町中華。創業1970年のカンロクがそこはかとなく漂う。
壁には黄色いメニュー表がどーんと貼り出されて、定食類は別の貼り紙に分けられている。カレーライス、カツ丼、オムライスの"町中華三種の神器"が勢揃いしているのが頼もしい。おふくろラーメン(おにぎり付ラーメン)やイタメソバ(太麺の上海風焼きそば)も魅力的だが、食べ過ぎると後が続かなくなり悩ましい。
じっくり観察するとメニュー表ひとつにも店の歴史が現れているもので、この店の場合は書体その他から創業時もしくは初期に貼られたものと推測できる。消されているのはわずか3箇所。ほとんどが昔と変わっておらず、値段だけが何度か更新されてきたものと考えられる。肉野菜炒め(700円)と酢豚(1150円)の間には何があったのだろう。回鍋肉あたりか。酢豚の下の空欄はエビチリか。そんなことより酢豚の根強い人気について思いを巡らせるべきだろうか。メニュー表だけであれこれ楽しめるのだ。
さてと、何にしよう。宮田さんは炒飯を選択。となると僕は麺類にしたい。
先客は何を食べているかと見回すと、明らかな偏りがある。圧倒的にサンマーメンが多いのだ。サンマーメンは神奈川県では普通のメニューだが他地域にはあまりない。よし、これにしよう。
あっという間に出来上がってきた。知らない人に説明するとしたら、餡かけタンメンとでも言えばいいだろうか。あるいは豪華なもやしそばか。間を置かず炒飯もやってきた。ひと目で分かる、絶対ハズレのない炒飯である。
せーので食べ始めたら箸が止まらない旨さだった。サンマーメンは餡ものの鉄則である"超アツアツ"をきっちり守る。味付けは見た目より淡白だ。一方の炒飯はラードたっぷりでパンチがあった。スープが薄味なのもありがたい。
黙々と食べる。常連客たちも静かに食事に集中しているようだ。動きに一切無駄がないのは、量が多いため、せっせと食べないと麺が伸びるからか。
この時間からヘビーな中華を食べる姿が似合うのは若者のはずだが、店内はオヤジだらけである。きっと、「今日は味喜で昼メシだ」と決めてきたのだろう。いつもの味と雰囲気を求めて、ごく自然に足がむくのだ。少し早めに来るのは、昼休みになると混雑することを知っているからに違いない。20年や30年通いつめたファンがひしめいていそうである。「味喜」のレギュラー選手たちと同席できて光栄だ。
宮田さん、5分で炒飯完食。遅れて僕もサンマーメンを完食。それを待っていたかのように新しい客が入ってくる。店がフル稼働するランチタイムは目前だ。
●味喜
営業時間 11時半~17時
定休日 水、木
住所 鎌倉市大船1丁目15ー15
電話 0467-46-7669