江の島への近道 湘南モノレール株式会社

第二回 "神奈川県の宝"・大船系品種① シャクヤク編



大船フラワーセンターへ着いた。入口で入場券を買い、中へ入る。

5月中旬、大船フラワーセンターのシャクヤクが見頃を迎える。開花時期に合わせて訪れたところ、園内のシャクヤク園では向こうの方まで目一杯シャクヤクが咲き誇っていた。

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写真2-1:大船フラワーセンターのシャクヤク園

シャクヤクは、ボタン科ボタン属の多年草。平安時代までに日本に薬草として導入され、江戸時代には多くの園芸品種が育成されたと言われており、日本人にとっては古くから馴染みのある植物の一つだ。
2018年のリニューアルに伴いシャクヤク園が拡大され、現在園内で見られるシャクヤクの数は210品種・2500株と、全国有数の規模を誇る。そのうち約150品種が、かつてこの地で育種され受け継がれてきた「大船系」のシャクヤクだ。

大船フラワーセンターは、1962年(昭和37年)に「神奈川県立フラワーセンター大船植物園」として、神奈川県農業試験場(当時の農事試験場)の跡地に開設された。
神奈川県農業試験場は、1896年(明治29年)に横浜市岡野で創設。規模の拡大に伴い明治時代末に保土ヶ谷、大正時代に現在のフラワーセンターがある鎌倉市岡本に移転した。
ここでは明治から大正時代にかけて、国の資金を投じて海外輸出用の園芸植物の品種改良が行われていた。
当時の場長・宮澤文吾氏が中心となって育種されたシャクヤクや花しょうぶなどの品種は「大船系」と呼ばれている。

「海外への輸出用に、世界...主にヨーロッパに受けそうな特徴が研究され、品種改良が行われていました。見た目でそこまで極端な違いはありませんが、それなりに個性があるものを絞り込んで品種登録していたので、"神奈川県の宝"とも言えます。」
(大船フラワーセンター植栽担当・木原吉郎さん)

明治後半から大正時代までのわずか15〜20年の間に、花しょうぶは約300品種、シャクヤクについてはなんと600以上もの品種が作られたという。

「600品種作るというのは、すごいことなんです。品種改良では「こういうものを作ろう」と大体イメージして、花型や色など、色々な品種をかけあわせて、咲いたものの中から外に出しても恥ずかしくないものを選別していきます。世界中の品種を一気に集めて、交配し、開花させ、そこから排除して、また新しいものを掛け合わせて...というのを繰り返していくと、新しい品種を作るのに最低でも7、8年はかかります。通常、100種類咲いても表に出せるのは1、2種類程度。15〜20年の間に600品種も作ったというのは、万近くもの花を咲かせて輸出できるものを選別していったということ。短期間で、ものすごいパワーが注がれていたんです。」
(前出・木原さん)

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図:「大船系」品種改良のプロセス(インタビューをもとに筆者作成)

シャクヤクの見どころの一つは、バリエーション豊かな花型。
日本でもともと栽培されていたシャクヤク(和シャク)は、どちらかと言えばシンプルな花型が多いが、西洋で育種されたシャクヤク(洋シャク)には、見た目が派手な薔薇咲き・八重咲きのタイプが多いそう。

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写真2-2:洋シャクの「サラベルナール」

「大船系」のシャクヤクは、和シャク・洋シャク問わず、世界中から集めた様々なタイプを掛け合わせて、海外向けを意識した品種改良が行われた。それまでの和シャクにはないような華やかな見た目の品種も作られ、ひとくちに「大船系」といっても、多種多様な花型が楽しめるのが大きな見どころだ。花弁のつきかたや雄しべ・雌しべの発生の仕方などで、なんと花型が9タイプにも分類されるとのことだ。

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図:シャクヤクの花型(大船フラワーセンター「しゃくやく花さんぽ H26.5.9版」より)

園内のシャクヤク園では、大船系の品種のプレートに「大船系」と書かれている。「大船系」と書かれたシャクヤクを目で追うだけでも、花の色や花弁の形がバラエティ豊かなことに驚かされる。

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写真2-3:一重咲きの賜金(シキン)

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写真2-4:翁咲きの面影(オモカゲ)

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写真2-5:冠咲きの玉貌(ギョクボウ)

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写真2-6:手毬咲きの月華(ゲッカ)

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写真2-7:半八重咲きの玉牡丹(タマボタン)

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写真2-8:薔薇咲きの超天功(チョウテンコウ)

大正時代末期に国策としての「大船系」品種改良は終了。昭和7年時点で698もあった品種は、その後戦災などで多くが失われてしまった。しかし近隣農家や大学などにも協力を依頼し分散して保存することで、品種が絶えないようにしているという。
先人の知恵が結晶したバラエティ豊かな大船系シャクヤクは、地域の財産なのだ。

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写真2-9:昨年の「大船系シャクヤク総選挙」で来場者人気1位の酔月(スイゲツ)

このように、シャクヤクだけでも十分な見ごたえがあるが、園内で見られる「大船系」植物はこれだけではない。
もう一つの代表的な植物が、花しょうぶだ。

<続く>

取材協力:
日比谷花壇大船フラワーセンター 石川十夢さん、木原吉郎さん

参考文献・ホームページなど:
・しゃくやく花さんぽ H26.5.9版(大船フラワーセンター資料)
・『神奈川県立フラワーセンター大船植物園のわくわく花散歩』(熊坂一夫)
・『植物園からの便り 開園四十周年を記念して』(神奈川県立フラワーセンター大船植物園)

・神奈川県農業技術センターホームページ http://www.pref.kanagawa.jp/div/1611/

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村田あやこ(大船系植物編)
路上園芸鑑賞家。福岡県生まれ。大学では地理学を学ぶ。街角の園芸活動や植物に魅了され「路上園芸学会」を名乗り魅力を発信。植物への興味が尽きず園芸装飾技能士の資格も取得。『街角図鑑』(三土たつお編著・実業之日本社、2016年)に路上園芸のコラムを寄稿。好きな植物はアロエ、シェフレラなどの丈夫な熱帯植物。TwitterInstagram @botaworks
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