江の島への近道 湘南モノレール株式会社

湘南江の島カフェ散歩(前編)

「江ノ島に渡らない湘南江の島カフェ散歩」というのが今回、Mさんからいただいたテーマ。湘南モノレールの湘南江の島駅を起点にしながら、「あえて江ノ島への橋は渡らずに湘南カフェ散歩を楽しんでください」と。

目先の変わった散歩は大好きだ。観光ルートを外れて我が道を行くと、角を曲がったとたんに大きなシャボン玉が美しいクラゲのように漂ってきたりするから(これは私の蔵前での実体験)。

実際のところ、江ノ島に行かない4月のカフェ散歩は、虹色に光るシャボン玉(しかも割れない)のように素敵なカフェにたくさん出会えるコースだったのだ。

kawaguchi_8_00.jpg


「LAWDY BLUE」
でマフィンとコーヒーの朝食

平日の朝9時50分、湘南江の島駅に降り立って帽子をかぶり直す。商店街の続く「すばな通り」ではなく、境川沿いの道をめざした。

陽射しを反射する川面。境川は北から南へ、つまり江の島に向かって流れて相模湾に注ぐ二級河川だ。少し歩くとすぐに江の島の姿が見えてくる。軽快にジョギングする女性とすれ違う。大型犬とおじさんものんびり散歩中。海辺で暮らす人々のライフスタイルを想像してみる。

最初の目的地は川沿いの一軒家、有名ダイナー「DIEGO BY THE RIVER」。店舗プロデュース・山本宇一&デザイン・形見一郎という、カフェ通いの歴史が長い人ならはっとするコンビが手がけた人気店である。

kawaguchi_8_01.jpg

だが今回、朝食をいただくのはDIEGOではなく、その1階に作られた「LAWDY BLUE」のほう。平日は2階よりも1時間早くオープンするのだ。

10時きっかりに扉を開けると、魅惑のアメリカンベイクの数々が焼き上がったところだった。北海道産小麦粉で作る5、6種類のマフィン、クッキー、それにケーキ。朝食を抜いてきた甲斐がありました!

kawaguchi_8_02.jpg

注文したのは季節限定の神奈川県産オレンジ、湘南ゴールドを使ったマフィン(400円)とドリップコーヒー(400円)。そして我慢できずにベリーのタルト(600円)も。豆は全国のコーヒー好きに知られる地元の名店「27 COFFEE ROASTERS(http://27coffee.jp/)」から仕入れている。

湘南ゴールドが鮮やかに香るマフィン。まぶたの裏がオレンジ色に染まる、初夏の朝の幸福。

kawaguchi_8_03.jpg

「LAWDY BREWのコンセプトは<日常生活に彩りを加えるカフェ>です」と、スタッフの伊藤太成さんが教えてくれた。

「本格的なコーヒーが飲めるお店の中で一番海に近い、というのも特長のひとつですが、インテリアはいかにも海岸のカフェというよりは、落ちつける居心地のいい空間。2階のDIEGOに比べて地元の方々のご利用が多いですね。ホームメイドのお菓子とコーヒーで小休止したくなったらぜひお立ち寄りください」

kawaguchi_8_04.jpg

kawaguchi_8_05.jpg

LAWDY BREW(ローディー ブリュー)
神奈川県藤沢市片瀬海岸1-13-8
TEL 0466-65-0209
10:00〜26:00 定休日:火曜日
http://lawdybrew.com


古民家「喫茶ラムピリカ」には驚きがいっぱい

川沿いの道を戻って北へ歩くと、10分もしないうちに静かな住宅街にある二軒長屋「喫茶ラムピリカ」に到着する。小さな濡れ縁のついた、築70年近いという昭和の住まいだ。陽当りのいい玄関で靴を脱ぎ、本棚に並ぶ背表紙を眺めながら畳の間に上がった。

kawaguchi_8_06.jpg

そこには、懐かしい家庭の気配があった。生活感という意味ではなく、親が地に足をつけて暮らし、子どもがいきいきと育っているという気配。その理由は店主の義廣千秋さんとの会話で明らかになる。

家庭の気配。
不定期営業の喫茶店というスタイル。
健康と環境に配慮した食材を使っておいしいものを作ること。
この場で開かれるユニークなイベント。

すべては千秋さんの「シングルマザーとして二人の子どもを育てながら働き、楽しく暮らしていくには?」という問いから生まれたものだった。

kawaguchi_8_07.jpg

それをお伝えする前に、いただいたものをご報告。「有機全粒粉のふわしゅわパンケーキ・オリジナル」(1800円)と「熟成オールドビーンズ珈琲」(500円)。パンケーキにナイフを入れて断面を見たとき、珈琲をひとくち飲んだとき、それぞれに小さな驚きがあった。

熱々のスキレットに入った、香ばしい全粒粉のパンケーキ生地。その中から顔をのぞかせたのは、とろりとしたクリームチーズだった。変化のある食感。最後まで飽きさせない風味。千秋さんが試行錯誤してたどりついた、ラムピリカのオリジナルレシピだ。

kawaguchi_8_08.jpg

そして、珈琲の豊かな甘苦さとコク。聞けばなんと上野の名店「ウエスタン北山珈琲店」の豆を使っているのだという。素晴らしいエイジング珈琲のお店なれど、ご主人は大変にこだわりの強い、頑固な職人気質。思わず「普通に卸してくれるんですね?」と訊いてしまう。

「珈琲はずっと好きでしたが、特にこだわっているわけではなかったんです」と千秋さん。
「散歩中に見つけて、何の気なしに入ったのがウエスタン北山珈琲店(https://allabout.co.jp/gm/gc/219456/)。そこで飲んだ珈琲に衝撃を受け、開業するときに相談しました」


きっとそういう「散歩の幸運」に恵まれた人なのだろう。この古い二軒長屋にたまたま出会ったのも散歩中だったという。6年前、千秋さんはこの家で喫茶店を営みながら暮らすために二軒まとめて借り、子ども二人を連れて引っ越してきたのだった。

kawaguchi_8_09.jpg

「以前は都内に勤めながら一人で子育てをしていましたが、保育園の送り迎えも大変。体力的に限界を感じて、ひとつの場所で仕事も育児も家事もできて、楽しく暮らすにはどうすればいいかを考えていたのです。そのアンサーが喫茶店でした」


喫茶店は自分の好きなものに日常的に触れられる空間、と千秋さんは言う。また、人が集まる場所で子育てをしたいというのも大きなテーマだ。子どもたちには自分以外の大人にもたくさん触れてほしい。千秋さんはそう考えていた。

崩れた土壁を補修したりしながら古い家を居心地よく整え、2015年に喫茶店ラムピリカをオープン。ラムピリカとはアイヌ語で、ラムが「心」や「精神」を、ピリカが「美しい」を意味する。

kawaguchi_8_10.jpg

千秋さんが二人のお子さんを出産したのは北海道で暮らしていた時期。旭川の住まいの近くにはアイヌの資料館もあり、彼らの世界観に惹かれていったという。

「アイヌの人々には、自然を崇拝しながら地球上で人間が人間らしく生きるための知恵やユーモアがあると思うのです。元から惹かれていたネイティブアメリカンの文化にも通じる魅力を感じました」


12歳から19歳までタイで暮らした千秋さんは、さまざまな異文化に触れながら、心豊かに暮らすとはどういうことなのかを常に意識してきた。そういうベースから閃いたアイディアのひとつが「お父さんバンク(https://otosan-bank.com/)」である。

千秋さんはラムピリカの周囲の大人たちに子育ての悩みを相談することがあった。たとえば健康について、親子ゲンカについて、進路について。人によって得意なジャンルが異なるので、相談する相手はそれぞれ違う。

「自分が得意なことで頼られると、頼られた側も嬉しそうなんですよね。これを仕組みにしたいと考えました。たとえば、退職して時間に余裕のある子ども好きの方々と、余裕のない子育て世帯をマッチングすれば、双方に喜ばれます。かつて日本には村全体で子どもたちを見守っていた時代がありました。そんな人間関係ができればと思ったんです」


この素敵な仕組みはメディアにも取り上げられて全国的に注目され、自分の地域でもやりたいという人が次々に現れているそうだ。

kawaguchi_8_11.jpg

そういうわけで、純然たる喫茶店として営業する日は少ないのだけれど、ゆったりしたいい時間が過ごせるのでFacebook(https://www.facebook.com/lampilica/)で営業日を確認して訪れてみてください。

「忙しい日常を過ごしている人が多いと思いますが、ここに来ると時間の流れが変わったり、ものの見えかたが変わったりする――そんな体験ができることをコンセプトにしておりますので、よかったら遊びにいらしてください」

喫茶ラムピリカ
神奈川県藤沢市片瀬3-1-26
TEL 050-1065-1048
不定期営業
https://www.lampilica.com/

LINE
Twitter
facebook
google+
hatenablog
川口葉子ポートレート
川口葉子
ライター、喫茶写真家。
絶望的な方向音痴。地図を見るときは必ずぐるぐる回してしまう。
著書に『鎌倉湘南カフェ散歩』『京都カフェ散歩』(以上、祥伝社)『東京の喫茶店』『街角にパンとコーヒー』(以上、実業之日本社)『本のお茶』(角川書店)『コーヒーピープル』(メディアファクトリー)他多数。
著者のご紹介
mr.ブラーン
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)ポートレート
「鎌倉殿と十三人の御家人」のゆかりの地を歩く
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)
フリージャーナリスト
佐藤淳一ポートレート
乗らずにいられない、懸垂式モノレールの魅力
佐藤淳一
ドボク+動物のかけもち写真家
宮田珠己ポートレート
湘南モノレールはどのぐらいジェットコースターなのか
宮田珠己
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
宮田珠己(続編)ポートレート
5つの面白レールを1日で。ゆかいなのりもの大冒険!
宮田珠己(続編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
村田あやこポートレート
路上に潜む異世界を求めて ー湘南モノレール沿線 路上園芸探索ー
村田あやこ
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(続編)ポートレート
湘南モノレールから歩いていける森巡り
村田あやこ(続編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(変形菌編)ポートレート
ルーペの向こうのちいさな世界
村田あやこ(変形菌編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(大船系植物編)ポートレート
「大船系」植物と玉縄桜~知っていますか?大船生まれの植物たち~
村田あやこ(大船系植物編)
太田和彦ポートレート
大船で飲む
太田和彦
作家。旅と酒をこよなく愛する
八馬智ポートレート
土木構造物としての湘南モノレール鑑賞術
八馬智
ドボクの風景を偏愛する都市鑑賞者
西村まさゆきポートレート
湘南モノレールの昔と今を比べてみる
西村まさゆき
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(続編)ポートレート
開業当時の古写真の場所はいったいどこか探す旅
西村まさゆき(続編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(車両基地編)ポートレート
大人のモノレール車両基地見学記
西村まさゆき(車両基地編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
大船ヨイマチ新聞ポートレート
よい街 オーフナ
大船ヨイマチ新聞
大船のフリーペーパー。昼は「良い街」夜は「酔い街」。
皆川典久ポートレート
地形マニアと鉄ちゃんの凸凹乗車体験記〜湘南モノレールに乗って〜
皆川典久
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
皆川典久(続編)ポートレート
湘南モノレールに乗らずに
皆川典久(続編)
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
能町みね子ポートレート
ほじくり湘南モノレール
能町みね子
肩書きに迷いつづけ、自称「自称漫画家」。散歩好き。
ドンツキ協会ポートレート
ドンツキクエスト in 湘南モノレール
ドンツキ協会
ドンツキ協会は東京の路地の町、向島を拠点に、袋小路『ドンツキ』の研究に取り組む団体。
大谷道子ポートレート
湘南モノレール運転士インタビュー 「運転する人どんな人」
大谷道子
ライター・編集者。
井上マサキポートレート
湘南モノレールの「まっすぐ路線図」を鑑賞する
井上マサキ
路線図を鑑賞するライター
井上マサキ(ぶら喜利)ポートレート
ぶら喜利
井上マサキ(ぶら喜利)
路線図を鑑賞するライター
鈴木章夫ポートレート
湘南モノレールバー人図鑑
鈴木章夫
誰かをちょっとだけびっくりさせるのが幸せ。かまくら駅前蔵書室(カマゾウ)室長
二藤部知哉ポートレート
ソラdeブラーンdeラーン
二藤部知哉
沿線在住のんびりブラーンランナー
いのうえのぞみポートレート
湘南フォトレール カメラを持って湘南モノレールに乗ろう!
いのうえのぞみ
モデル・タレントで世界一周を目指すカメラマン
大村祐里子ポートレート
フィルムdeブラーン
大村祐里子
フィルムカメラをこよなく愛する写真家
川口葉子ポートレート
モノレールdeカフェ散歩
川口葉子
都市散歩と喫茶時間を愛するライター、喫茶写真家。
松澤茂信ポートレート
湘南別視点ガイド
松澤茂信
東京別視点ガイド編集長。珍スポットとマニアのマニア。
川内有緒ポートレート
湘南トライアングルをめぐる旅
川内有緒
ノンフィクション作家
田中栄治ポートレート
MonoTube
田中栄治
地上と空のスピード感を追い求めている素人カメラマン
三土たつおポートレート
本物の車内アナウンスが楽しすぎた。
三土たつお
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
三土たつお(続編)ポートレート
湘南モノレール風景図鑑
三土たつお(続編)
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
杉浦貴美子ポートレート
食べる!湘南モノレール -湘南「地形菓子」制作奮闘記-
杉浦貴美子
地図・地形好きライター
今泉慎一ポートレート
〝もののふ隊〟駅前砦にあらわる
今泉慎一
旅・歴史・サブカル好き編集者兼ライター
ワクサカソウヘイポートレート
車窓の冒険
ワクサカソウヘイ
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
ワクサカソウヘイ(夜編)ポートレート
夜になると 湘南モノレールは
ワクサカソウヘイ(夜編)
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
半田カメラポートレート
大船観音の劇的楽しみ方
半田カメラ
大仏写真家
遠藤真人ポートレート
ジェットにGO!GO!!
遠藤真人
モノレールに敬礼!鉄道写真バンザイ!
石川祐基ポートレート
湘南モノレール「もじ鉄」旅
石川祐基
グラフィックデザイナー。鉄道と文字が好きな、もじ鉄。
大竹聡ポートレート
腰越で飲む
大竹聡
酒と酒場をこよなく愛するフリーライター
荻窪圭ポートレート
道標をきっかけに江の島まで古道を辿る
荻窪圭
老舗のデジタル系ライター。古道・古地図愛好家。
松本泰生ポートレート
湘南モノレールが見える階段を探して
松本泰生
階段研究家
大山顕ポートレート
湘南モノレールに乗って体長2kmのヤギを描く
大山顕
ドボクフォトグラファー
田代博ポートレート
湘南モノレールと富士山
田代博
富士山遠望鑑定士。ダイヤモンド富士ハンター。
北尾トロポートレート
町中華タウン大船をゆく
北尾トロ
町中華探検隊隊長
喜清みずほポートレート
失われた 記憶をたどる まぼろしの遊園地「江の島龍口園(えのしまりゅうこうえん)」
喜清みずほ
鎌倉観光ボランティアガイド
宮田珠己(龍口寺編)ポートレート
龍口寺の龍と、謎の仏像
宮田珠己(龍口寺編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
加門七海ポートレート
江の島怪談闇歩き
加門七海
作家
中野純ポートレート
江の島怪談闇歩き
中野純
負の走光性がある、闇歩きガイド
髙山英男ポートレート
暗渠deブラーン ~暗渠マニアが味わう湘南モノレール沿線
髙山英男
中級暗渠ハンター(自称)。
吉村生ポートレート
暗渠deブラーン ~暗渠マニアが味わう湘南モノレール沿線
吉村生
暗渠マニアックス
宮田珠己(空の駅編)ポートレート
湘南江の島駅は、日本一高い駅だった!?〜日本一、地上高が高い駅はどこか?
宮田珠己(空の駅編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
西村まさゆき(駅名編)ポートレート
湘南モノレール「駅名」ルーツをたどる旅
西村まさゆき(駅名編)
石山蓮華ポートレート
いい線いってる夜
石山蓮華
電線愛好家
中島由佳ポートレート
いい線いってる夜
中島由佳
ゴムホースマニア
加賀谷奏子ポートレート
いい線いってる夜
加賀谷奏子
サンポー編集部ポートレート
しょもたんの完全一致を探す散歩
サンポー編集部
散歩の横好き集団
中野純(鎌倉大横断編)ポートレート
鎌倉大横断ミッドナイトハイク
中野純(鎌倉大横断編)
負の走光性がある、闇歩きガイド
森川天喜ポートレート
湘南モノレール全線開通までの全記録
森川天喜
フリージャーナリスト
しょもたんポートレート
モノレールの運転士さんや駅員さんの話をきいてみよう!
しょもたん
湘南モノレールのマスコットキャラクター。
森川天喜(今昔写真撮影隊)ポートレート
湘南モノレール沿線 今昔写真撮影隊!
森川天喜(今昔写真撮影隊)
フリージャーナリスト
モノ喜利(井上マサキ)ポートレート
モノ喜利
モノ喜利(井上マサキ)
めざせ!最優秀ブラーン賞
ヴッパータール空中鉄道座談会ポートレート
ヴッパータール空中鉄道について思いっきり語る
ヴッパータール空中鉄道座談会
ヴッパータール空中鉄道に乗車した人たち
モノ散歩ポートレート
モノ散歩
モノ散歩
沿線の魅力が集結!
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)ポートレート
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)