「きみに会いに行く」コーヒー屋さん
近年のコーヒー店には2つの系統がある。ひとつは高品質なコーヒーの魅力を伝えたいお店。もうひとつはコーヒーを介して人がつながることを主眼にしているお店。
もちろんどちらか一方だけではお店は成立しないのだけれど、根底にある「コーヒーは目的なのか手段なのか」、その違いは店主のたたずまいに表れている。
「きみに会いに来てるんだから」
そう言ってくれたお客さまがいるんですよ、と「イマジネーションコーヒー」の店主、宝珠山大輔さんは世間話のついでに言った。
常連客は高校生から地元のシニアまでさまざまで、「悩み相談にのってくれる、と友だちから聞いて来ました」という若い人もいるらしい。
「確かにいろいろな相談を受けますが、僕の悩みも相談します(笑) 最初にどんなお店なんだろうと思って少し緊張して入ってきたお客さまが、話をして、帰るときには笑顔になってくれるのが何より嬉しい」
というわけで、今回が初来店の私もお店に入って3分後にはリラックスして笑っているのだった。さすが、「べーぐるもへある」のオーナーが「コーヒーをテイクアウトしに5分だけ寄るつもりが、うっかり30分もおしゃべりしてしまう」と言うだけのことはある。
お店の場所はPOMPON CAKESから徒歩1分。自家焙煎したコーヒー豆の販売カウンターと、小さなカウンター席、テラス席を持つロースター&スタンドである。
鎌倉・稲村ケ崎で生まれ育った宝珠山さんは、「にぎやかな海も鎌倉らしさなんですが、山が見えるこの町の静けさもまた鎌倉らしさなんです」と言う。その一角に、毎日気軽に飲むための、ブランドにこだわらず手頃な価格でおいしいコーヒーを提供する小さなお店を構えたのは2014年春のことだった。
店頭で楽しめるドリンクは、クレバーで抽出するブレンド3種類、ストレート7、8種類のコーヒーやカフェオレなど。コクと甘みを重視したという「イマジネーションブレンド」(350円)を注文した。
小さなスツールに腰かけてあらためて見回せば、店内は魅力的な雑貨でいっぱいだ。これらの木製の日用雑貨の数々は誰が作ったのですか?
「友だちのAtelier 2F(アトリエ ニエフ)という家具職人です。ドアストッパーは新築祝いに買っていく人がいます。ヨット型のコーヒーフィルタースタンドはイギリスの雑誌『Wallpaper』にも紹介されたんですよ。このお店の内装も彼がデザインしてくれたんです」
元は薬局だったという物件。改装工事の際にはAtelier 2Fの夫妻、それにコーヒーのドリップパックのイラストを描いてくれたイラストレーター夫妻、そして宝珠山さんの5人で壁を塗るなどしたそうだ。
「コーヒーが好きだからコーヒー屋になったわけじゃないんです」と宝珠山さんは言った。人と接する仕事、それも1度限りのつきあいではなく、繰り返し言葉を交わしていける仕事をするための選択肢としてコーヒー専門店を選んだのだ。
店奥には韓国製の焙煎機1.5キロ釜。各種セミナーに参加して技術を習得したが、改装工事中に何気なくコーヒーを飲みに行った1軒のコーヒー店で、師匠と呼ぶ存在に出会ったという。
「鵠沼の『イースト』で、スタッフのおばちゃんに『今度お店を出す』と話していたら、たまたまオーナーから電話がかかってきて。
『いまコーヒー屋さんをやるって子が来てるの』とおばちゃんが言ったら、オーナーの畠山さんが『土日は自分が店にいるから遊びにおいで』と言ってくれて、それから僕の師匠になりました」
畠山さんは宝珠山さんをカウンターの中に招き入れ、無償でたくさんのことを教えてくれたそうだ。神さまみたいに親切な人ですね?
「人間のレベルが上がるとそうなるんだと思う」
宝珠山さんはそんな人に見込まれた?
「いや、畠山さんは知り合った人を大事にしてるんだと思います。いまだにいろいろ教わってます。畠山さんが軽くぽろっと言った言葉が、その時はぴんとこなくても、困ったときに思い返すと『あのとき、このことを言ってたんだ!』とわかるんですよ」
素敵な話だなあと思っているとドアが開いて、コーヒーと楽しいおしゃべりを求めるお客さまがやって来た。
imagination COFFEE(イマジネーションコーヒー)
神奈川県鎌倉市梶原1-20-7
TEL 0467-43-0141
11:00〜19:00 定休日:火
http://imaginationcoffee.com/