江の島界隈に出かけようと交通機関を調べて、ちょっと驚いた。大船からモノレールで、わずか14分である。懸垂型のモノレールを下から眺め上げたことは何度もあるが、移動の手段として使ったことがなかったから、時間の感覚もまったくなかったのだ。
しかも、モノレールの終点、湘南江の島は、江ノ電が路面を走る、昔懐かしいような雰囲気を持っている。ぶらりと歩いてみたい道だし、江ノ電の腰越を過ぎて、さらに歩けば、アニメ「スラムダンク」のオープニングで有名な鎌倉高校近くの踏切も遠くない。なんでも台湾人にたいへんな人気のスポットということだが、踏切の向こうに穏やかな相模湾が見えるわけだから、アニメに興味がない人にもお勧めしたいビューポイントらしい。
そういうことであるならば、知らない街を歩くにはまず酒場から、と思う私などは、腰越のシブい街で1軒2軒と訪ね歩き、最後には海っぷちへ出ようというプランは、迷いもなく即座に決まる。
こういうことは、事前にはあまり調べぬのが楽しみのコツ。手ぶらで出かけてスマホに頼ることもなく、街を歩きながら、店に飛び込んでみる。それが一番と思う。
出かけたのは11月某日の夕刻。西の空にかすかに残っていた茜色もすっかり消える頃合いだった。
道幅が意外に広い。ちょうど交差点にあたっているからなのだが、そこから鎌倉方面へ向かう道もゆったりしている。江ノ電の路面線路が道の中央にあり、両脇に2階建てくらいの、背の高くない建物が連なる。その風情はいかにも昔の旧市街を思わせる。
腰越は鎌倉への入り口にあたり、漁業の盛んな土地であったという。鎌倉に幕府が置かれていたことを思えば、漁村とはいえ、そこには賑わいの歴史もあったのでないか。間口の広い、風格のある和菓子屋さんの店頭に立てば、ふと、そんな想像もわいてくる。
道路信号よりも少し高いくらいのところにオレンジの光がともった。
電車、と表示されていて、しばらく見ていると、それが、接近に代わり、順に、繰り返す。そこへ路面を走る江ノ電がやってくる。江ノ電と、湘南モノレールは、ここで接続するのだ。
1軒の店を見つけた。旬魚菜 しら川、と看板にある。旬、魚、の2文字に目が吸い寄せられる。いきなりの幸運だと思う。迷うことなし。何が名物なのか、など、知らんでよろし。魚の獲れる街の、海からすぐ近くの料理屋であり酒場である。