夜も完全に深まった。誰もが布団の中で気絶している時刻、その裏では、いったい何が起きているのか。いよいよ夜間散歩も佳境である。
23:55。湘南深沢駅から、最終の江の島行き車両が出発していった。
そして駅周辺は静寂に包まれていく。街灯が誰のためともなく闇を照らし、羽虫の影が揺れている。
するとその時。もう終電の時刻を過ぎたというのに、モノレールの車両が続々と集まってくるではないか。これは一体、どういうことなのだろう。
その車両たちを追いかけていくと、巨大宇宙船のごとき車両基地が現れる。
それはつまりモノレールの寝床だ。深夜の湘南深沢駅周辺では、一日働き続けた車両たちがここへと次々に「帰宅」する姿を目撃することができるのである。
湘南モノレールは7編成で運行されており、そのうちの6編成がこの車両基地へと帰り着くそうだ(残りの1編成は湘南江の島駅で眠る)。
当たり前だが、業務を終えている車内に乗客の姿はない。照明をオフにして走る車両も見ることができる。
ゆっくりとしたスピードで、そろりそろりと基地の中へと収まっていく車両たち。「やれやれ、あとは寝るだけだ」といった感じだ。
本番を終えたモノレールたちのプライベートな姿を眺めていると、なんだか出待ちをしている気分になる。湘南モノレールファンとしては、冥利に尽きる瞬間である。
零時過ぎ。すべての車両が布団に入る。
ここから先は湘南モノレールの睡眠時間。これ以上の「夜の動き」は望めなさそうだ。
そろそろこの場を立ち去ろうか。
と思った、その時。
車両基地から、奇怪な姿の何者かが「ピカッ」と目を覚まし、モノレール車両と入れ替わるようにして発進したではないか。
この黄色い怪物は、点検車両。
レールに異常などがないか夜間に診断と治療を行う、「湘南モノレールのドクターイエロー」である。
点検車両はこの夜、車両基地からほど近い場所に足を止め、作業を開始した。
うぃーん。
がしゃがしゃ。
ごおーん。
機械的な音を響かせながら、点検車両が「何か」をやっている。
いや、まあ「何か」というか、点検作業をしているわけなのだけれども、でも具体的にどんなことをやっているのか地上からは確認できず、その存在はなんだか秘密めいているのだ。
点検車両は樹液を吸うようにしてレールに宿り、そして時折モゾモゾと前に進む。四角い両目はインベーダーな印象で、異物感が凄まじい。
この点検車両は「カニ方式」で運転されているのだという。前や後ろではなく、中央側面に運転席があり、横ばいで進んでいるのである。
それを聞くと、なんだか奇怪な節足生物のようにも見えてくる。レールは触角、地上に伸びる柱は長い脚だ。
誰もが寝静まっているその裏で、闇を蝕みながら、夜行性の巨大昆虫が蠢いている。それはレム睡眠時に見る夢にも勝る、不条理な感触の光景である。
私はそこに溢れている濃度の高い「SF的世界」を堪能した。
黄色い点検車両は闇の中でギシギシと音を立てながら、いつまでも夜空を侵略していた。