さて、まずは夜の湘南モノレールを外側から鑑賞してみたわけだが、では内側から覗くとそこにはどんな景色が広がっているのだろうか。続いては「夜の駅構内」と「夜の車内」を巡ってみることにする。
まずグッときたのは、各駅舎の入り口だ。
闇の中で、そこだけがぽっかりと浮かび上がっているゲート。「夜空」へと続く階段は、なんだか異界へと誘っているかのようである。
いくつかの駅を歩いてみたのだが、夜ならではの表情を濃く見せてくれたのは目白山下駅だ。
ここは降車客数の最も少ない駅で、終電の近づくこの時間ともなると、しんとした空気に満たされている。
そしてこの駅は広い公園に隣接している。だから虫たちのかすかな「チチチ......」という羽音や、カラスの漏らす「カア...」というため息が、黒い森から時折聴こえてくる。
夜の森のかすかな蠢きを聴きながら、無人の駅でいつ来るともわからないモノレールを待つ。このシチュエーション、なんだか既視感がある。なんだろう。
そうだ、『となりのトトロ』のワンシーンだ。
メイとサツキが父の帰りを夜雨の中、停留所で静かに待っている。あそこで描かれている心細い情緒と同じものが、このホームには広がっているのである。
駅の先端からは、トンネルを眺めることができる。
夜のトンネルって、なんともいえない雰囲気がある。いまにも未知なる何者かが「あっちの世界」から姿を現しそうだ。信号機の存在感も妙に妖しげである。
するとその時、「ココココココ......」という機械音が空気中に揺れ出して、モノレールの車両がトンネルの向こうから姿を現した。
ネコバスだ。
これは、完全にネコバスである。
森の気配が濃い夜の停留所でひとり佇んでいると、「あっちの世界」から両目を光らせて、ぬらりと現れる胴長の乗り物。夜の目白山下駅ホームで体感するモノレールは、実にネコバスだったのである。
「しゅーっ」という鳴き声を上げて、ドアが開く。
誰もいない駅からそれに乗り込むと、車内に現れるのはまたしても無人空間。
私だけを乗せたモノレールが、軽やかに夜空を駆けだす。
車窓の外に広がっているのは、ポツリポツリとした街灯だけで、あとは闇の世界。
そこには夜の乗車だからこその、不思議な浮遊感がある。自分がいまどこにいるのか、座標を見失う感覚だ。
風となって走るネコバスに乗ったサツキが「みんなからは見えないんだわ......」とつぶやくシーンがあったが、深夜の湘南モノレールでもまた、外の世界と切り離された、独特な雰囲気を味わうことができるのであった。
降車し、駅前からレールを見上げると、湘南モノレールは「あっちの世界」に帰っていくようにして、闇へと消えていった。
まもなく終電の時刻がやってくる。
湘南モノレールの沿線は、この先の夜にどんな景色を見せてくれるのだろう。