湘南モノレールの文字を巡る「もじ鉄」の旅。まずは大船から1駅目、富士見町駅で下車をしてみる。基本的に湘南モノレールのサインは統一されており、富士見町駅の駅名標も大船駅と同じデザインだ。もちろん書体も同じ......のように見えて実は少し違う。
「おおふな」「ふじみちょう」とともに平仮名の書体は「新ゴ B」であるが、2段目の漢字を見てみると「大船」が「M」(Medium)、「富士見町」が「B」(Bold)と文字の太さが異なる。
いったいなぜなのか。
鉄道のサインというものは「ひとつの看板」だけで完成するものではなく、各駅にさまざまな種類が混在し、設置時期もそれぞれに異なることが多い。また、設置された後でも破損や老朽化などによって新しいものに交換されるケースは数知れず......。その中で、このように「微妙に異なるもの」が生まれゆくことがある。もちろん全てがそうだとは言わないが、いくつかの鉄道会社さんに聞く限り、これが比較的正解に近い理由だ。明確な理由が分からないという答えもある。
もじ鉄を通して見える「日常の発見」とも言えようか。
さらに湘南モノレールでは、富士見町駅や西鎌倉駅に標準的な駅名標とは少し異なる「簡易版駅名標」も存在している。
どうだろう、先ほどの駅名標との違いは一目瞭然だ。グレーのラインが波状ではなく直線になっており、観音さまとヨットのアイコンがない。とはいえ湘南モノレールにおける標準的な駅名標のスタイルから大きくイメージがかけ離れておらず、デザインを踏襲しながらもシンプルなものになっている。ただし書体は平仮名、漢字ともに「新ゴ DB」(Demi Bold)。「M」と「B」の中間に位置する太さだ。
しかしなぜ一部だけこのような簡易版になっているのか。端くれ中の端くれでありながら、本職がグラフィックデザイナーでもある筆者の推測によるが、この駅名標は駅舎の支柱に取り付けられたものであり、サイズも標準的なものに比べ少し小さく横幅も狭い。要はデザインスペースが少ない。この限られたスペースの中にアイコンなどの要素を足すことはできなくもないが、おのずと「ふじみちょう」と記された文字と近接し、なんだかゴチャッとしてしまう。駅名を小さくすることでスペースに余裕ができるが、それでは案内サインとして本末転倒であろう。
その中で考えられた手段が、駅名以外の要素を排し、かつ既存のイメージを踏襲した簡易版の誕生なのかもしれない。これは決してデザインが統一されていないのではなく、統一感の中で生まれた「臨機応変」だ。
どう、ちょっとデザイナーっぽいこと言ってみたよ。
このように駅名標のひとつひとつに、さまざまなバックグラウンドが隠されているということを考えると、普段なにげなく見ている駅名標にストーリーを感じる。これを極めれば、もじ鉄も湘南モノレールの旅もさらに楽しくなるはず。
ちなみに富士見町駅の入口では、現行の駅名標と一世代前の古い駅名標が同時に観察できる。全国を探してみても、このように近接した状態で新旧が同時に見られるスポットは数少ないので、ぜひ途中下車をしに足を運んでみては?
そうそう、富士見町駅で降りて思い出したのだが、以前、泥酔した知人を送りに品川から富士見町までタクシーに乗ったことがあったっけ。いくらかかったのかは忘れたが、富士見町で知人を降ろしたあと、当時住んでいた江の島方面まで深夜に一人、歩いて帰ったのはいい思い出。暗闇の中にそびえるモノレールの支柱と線路に、海から来たであろう心地よい夜風は、どこか異世界のようでSFチックだった。あ、SFというのは「湘南藤沢」の意味ね。ここは鎌倉市だけど!