色あせた月別点検表
吊具、ワイヤー月別点検色(三土撮影)
工場の壁に貼ってある「吊具ワイヤー月別点検色」という掲示物が気になった。茶色と薄茶と白の表だ。
おそらく、眼の前にずらりと掛けてあるワイヤーや吊具の点検を行う順番を示したものだろう。
確かに、赤色のビニールテープは巻いてあるが......
三土「これ、ワイヤーについてる色を見て、月別に点検するって意味だと思うんですけど、茶色い印のついてるワイヤーはどこにあるんですか」
湘南「あ、これはもう作ってからずいぶん経っちゃって、色あせちゃって茶色になっちゃってますけど、ホントは赤です。吊具ワイヤーは毎月ちゃんと点検してます」
――手書きのレタリングが、特に「点」の異体字なんかは、なかなか味わいがでていていいですね。
無骨、といえばいいのだろうか、実に工場らしい景色だ。
モノレールの洗浄は、なぜ手洗いなのか
続いて、車両基地と離れた場所にある洗い場にやってきた。
車両の洗い場(萩原)
湘南モノレールの車両は、すべてここで丁寧に洗われているが、全て人手でゴシゴシあらっているという。
――以前、ぼくは別の媒体の取材で、モノレール車両の洗浄体験ということで、車両を洗ったことがあるんですが、めちゃめちゃ大変でした。
モノレール洗いました
――この歳になると、筋肉痛が2日遅れぐらいで来るんですよ、だから、あれ、なんでこんなに体が痛いんだ? って、すぐわからないんです。あ、モノレール洗ったんだってちょっと経ってから気づくという。
三土「これ、車両はすべて手洗いなんですね」
湘南「手洗いです。モノレールの車両を洗浄する装置というのは、特別に作らなければいけないのです。電車を洗浄する装置は、あるんですが」
――電車の洗浄機、ブラシがグワーッと回るやつ、ああいうやつのモノレールバージョンがないということですね。
三土「それは大変だ」
湘南「運転席に座ってみますか?」
男子なら一度は座ってみたい、憧れの運転席である。ただ、大人になって分別がつくようになると、うっかり変なスイッチを押してしまわないかとか、ヒヤヒヤする気持ちもじゃっかんある。(ちゃんと主電源が落ちて、ブレーキがかかった状態で乗せてもらってます)
なぞのボックスはなんなのか?
――ところで、前から気になってるんですが、運転室の後ろのこのボックス。なんなんですか?
このボックスは、なに?
湘南「気になりますよね」
――気になりますね、座っちゃダメ、って書いてあるので、よっぽど大事なものが入っているのか......神棚とか入ってたら、座っちゃダメって理由がよくわかりますけれど。
座っちゃダメ
湘南「開けてみますね」
一同「おぉ」
電気系統のリレーでした
湘南「接触器ですね」
萩原「あぁ、電気系統のリレーですね、運転室に入らなかったんだ」
湘南「運転室に置いても良かったんですが、そうしますと、視界が悪くなったりと、いろいろあるので、結果ここに、ということですね......本来は客室にこういうものは置きたくないんですよ、定員も減っちゃいますし」
――本音では、そうだ。
湘南「箱の上に軽い荷物ぐらいは置いても問題ありませんけど、人が乗るとやっぱり危ないんですよ。それから、メンテナンスも、中腰でやんなきゃいけないし、大変なんです。次の車両では、この部分はなんとかしたいところですね」
湘南モノレール、実はモノレールじゃ無いのでは疑惑
ところで見学している途中、三土さんが奇妙なことをいい出した。
三土「すみません、(湘南モノレールは)タイヤが乗っかってる部分はなんというんでしょうか?」
湘南「走行面といいますね」
三土「走行面というのは、レールとは違うんですか?」
湘南「はい」
三土「(湘南モノレールの)レールはどこにあるんですか?」
湘南「レールは......無いですね」
三土「あ、じゃあモノレールってのは実は、レールが無いんですね」
三土さん、急に何を言い出すかとおもったら、一休さんのとんちみたいな話をしだした。でも、言われてみれば、たしかにそうとも言えるかもしれない。(遠回しに肯定)
湘南モノレールは、タイヤがふたつで走行面がふたつあるから「モノレール」ではないのでは?
湘南「モノ、レール、たしかに......。ただ、跨座式だったら、またぐから軌道が一個ですよね。うちは、吊り下げてガイドしている軌道が一個だから......モノレールということですね」
三土「なるほど、軌道全体でひとつだから。そうなると、普通の鉄道も軌道全体はひとつじゃないかかなあ......」
――三土さん、気持ちはわかります。タイヤが2つあって、走行面が2本ある。これは、普通の鉄道の、車輪が2つあって、レールが2本あるのと変わらないですよね。ただ、まあこれは言葉の定義の問題ですよね......。
湘南「うーん、たしかに、普通の鉄道は、軌道を地面の上に作って、レール2本でガイドする。モノレールは高架に軌道を作って、その軌道を車両が跨ぐか、吊り下げるかして走らす......方式の違いですかね」
萩原「そうなると、カーテンレールとか、障子や襖の溝も、モノレールなんですよね」
湘南「極言すればそうなりますね、みかん畑の荷物運ぶやつとか、あれもモノレールですね」
この世には、隠れモノレールが意外と存在する可能性が示唆されたのではないか。......なんだか哲学的な話になってきた。さすが大人の車両基地見学だ。
興奮して見るのがよい
見るもの聞くもの、何でもかんでも「珍しい」とか「おもしろい」といっているうちに、もはや、工場にあるものなら何でもいいように思えてきた。「異体字の点がいい」とか、「エアコンがキングギドラ」など工場あんまり関係ないのである。とはいえ、見学で、実際に案内してもらうと、ふしぎとそんな気分になってしまう。
工場見学は、冷静でいても面白くないので、これぐらい興奮して見学するぐらいがちょうどいいのだ。