普通と違う道具たち
車両基地見学では、車両に注目して見学しがちになってしまうが、車両だけではなく、工場の備品も気になってしまう。
ふだんの生活ではあまり見かけないものがけっこうおいてある。例えばこんなの。
ピンクの粉(三土撮影)
萩原「これは鉄工所によくある石鹸ですね」
湘南「そうです、油汚れはなかなか落ちませんから。研磨剤が入ってる石鹸です」
この石鹸、実際に触ってみると、びっくりするほどザラザラしている。鉄工所や工場と無縁の生活をしていると、絶対にみることのない石鹸だ。
あれはなんだ?
鉄工所の中には空調がない。ので、夏場なんかは、スポットエアコンといわれる小型の空調機が設置されている。しかし、普通のスポットエアコンではなく、ヤマタノオロチみたいなやつがあったりするのもおもしろい。
キングギドラだ!(宮田撮影)
スポットエアコンならたまに見かけるけれど、こんなキングギドラかヤマタノオロチみたいなの見たことない。兵器感があるが、あくまでエアコンである。
よく見かけるものでも、仕様が微妙に違うものがあるのが工場ならではだ。
気になる水飲み器
三土「こっちの方にある水飲み器、なかなか年季がはいってますね」
年季の入った水飲み器(三土撮影)
三土さんが気になったのは、水飲み器。よく見ると「うがいも仕事のひとつです」と書いてある。水だけじゃなく、うがい薬が出てくるタイプの水飲み器だ、これは珍しい。
萩原「コロロうがい器だ。これ、霞ヶ関の官庁に行くとよくあるんですよ、農水省でみたことある」
萩原さん、なんでそんなこと知ってんのか、わからないけれど、詳しい。このうがい器、とても丈夫で、設置されてからウン十年たつものの、修理依頼をしたことがないという。
――うがい機能付きの水飲み器が、どうして工場にあるんでしょう?
湘南「工場の中って、けっこう埃っぽいんですよ、ゴムタイヤの粉塵なんかがまってたりして、それでうがいできる水飲み器が置いてあるんです。やっぱり、専用の機械があると、習慣になるんですよ」
うがいは、したほうがいい。とは思うものの、いくら「うがいをしましょう」と手洗い所の前に書いてあって促されても、なかなかそんな気にはならない。でも、それ専用の機械があれば「うがいでもするか」という気になる。行動経済学みたいな話だ。
実際、うがいはどんな感じなのか? やってみた。
なんでも体験である(三土撮影)
消毒薬の方からは、イソジンが出てくるという話であったが、うっすらミント味のスースーした甘い消毒薬が出てきた。うまいか、まずいかで言えば、微妙なラインだが、人によって、どっち側に触れてもいいような味だ。ありていにいうと、私にとってはまずかった......。いや、でも、口の名がスースーする気持ちよさはあった。薬はうまいとかまずいとか、関係ないからこれでいいのだ。
車両基地見学に来たのに、なぜうがい薬をテイスティングしているのか。
大人の好奇心はこういうところにも向くということである。
あふれるDIY精神
三土「これは......缶を潰すための機械?」
空き缶プレス機(三土)
湘南「空き缶プレス機ですね」
萩原「わざわざ機械を備え付けるほど、空き缶出ますか?」
湘南「出ます。ペンキやスプレーなんかの缶はけっこう出るんです。ごみ処理の単位が、重さではなくて、立米(りゅうべい、立方メートル)単位なので......」
萩原「潰したほうが、節約になるわけですね。よく見ると、これコンプレッサー以外は自作ですよね。これぐらいの機械の自作はやっちゃうのがすごいですね」
しかし、これぐらいのDIYで感心していてはいけない。もっとスゴイのがあった。
シンク?(宮田撮影)
じゃっかんくたびれた感じのシンク。だけど、よく見ると様子が変だ。「火気厳禁」というのもなんだかよくわからない。
三土「ものすごく手作り感がありますね......手作りですよねこれ、スイッチありますけど、これ押したらどうなるんですか?」
湘南「これは、スイッチ入れると、油がでますんで」
一同「......え、油ですか?」
ジャー(宮田撮影)
蛇口から液体がジャーっと流れ出ると同時にあたりに漂う灯油の香り。
湘南「灯油ですね、これで機械の油汚れを洗浄するんです」
三土「蛇口から油がでるんだ! 水道じゃなくて油道だ、だから火気厳禁なのか」
機械についた油汚れは、普通の洗剤や水ではきれいに落ちない。そんなときは、灯油で油汚れを溶かして洗浄する。油汚れは、油で溶かして落とすのがいちばん手っ取り早いのだ。
この「油道」は、すべて手作りで、一旦使った灯油は、下のタンクに貯め、汚れを沈殿させて、きれいなうわずみだけをまた使うのだという。
たぶん、ふつうに車両基地を見学しただけでは、灯油洗浄用のシンクがあって、しかもそれが自作だなんて、なかなか気づかない。
次回は「誰も気づかなかった重大な矛盾に気づいてしまう大人たち」です。