今、この街にしかないものを食べる散歩
カフェやスイーツに詳しい人なら、湘南深沢駅、あるいは梶原という地名を聞けばすぐに「ポンポンケークス!」と答えられるかもしれない。わざわざ遠方からもファンが訪れる素敵なお店だ。
続けて2軒目、3軒目のカフェが浮かんでくる人は、地元の人以外にどれくらいいるだろう?
「いいお店が何軒か点在していますよ」と、今回もMさんが指南してくれた。
「朝食にモントリオール・ベーグルが食べられる、今年6月にできたばかりのカフェなどもあるそうです」
モントリオール・ベーグル? それは一般的なNYスタイルのベーグルとは違うもの?
こうして朝食からスタートする湘南深沢カフェ散歩のコースを決めたのだが、結果としてそれはローカルなスモールタウンの散歩でありながら、いや、ローカルだからこそ今の空気と小さな希望を肌で感じられる、収穫の多い散歩になった。
では1軒目、まずはおいしい朝食にご案内します。
「べーぐる もへある」でモントリオール・ベーグルの朝食
午前9時、大船駅から湘南モノレールに乗って3駅。「あっ、もう?」とあわてるほどあっけなく湘南深沢駅に到着してしまった。
目指す「べーぐる もへある」は川沿いに建つ古い料亭を改装した「鎌倉ゲストハウス」の一角にあった。ここ数年、古民家をリノベーションした魅力的なゲストハウスの急増ぶりには目をみはるものがあり、かつてのカフェの勢いを思わせる。海外からも旅行者にも人気が高いという。
ここは8年前にオープンして鎌倉のゲストハウスの先駆けとなった一軒。宮大工が建てた料亭の半地下の引き戸を開けて店内に入ると、カフェ店主、左奈田望さんの快活な笑顔に迎えられた。
ちょっとわくわくしながらモーニングセットを選んでみる。ベーグル(プレーン、ゴマ、ポピーシードの3種類から選択)、バターまたはクリームチーズ、ミニサラダ、ドリンクのセットで500円。+150円で本日のスープも注文した。+100円で安田養鶏場のタマゴ(目玉焼き/ゆで玉子/スクランブルエッグ)をつけることもできる。
単品メニューも豊富に揃っており、軽めに済ませたい人向きのベーグルトースト、しっかり食べたい人のためのベーグルサンドウィッチなどがあることを確認しつつ、さっそく質問。モントリオール・ベーグルとはなんでしょう?
「ニューヨーク・ベーグルの基本は小麦粉と塩ですが、モントリオール・ベーグルは塩を入れず、タマゴと砂糖を入れるのでリッチな風味になるんです。ベーグルは焼く前にお湯で茹でますが、そのお湯にハチミツを加えて、甘みともっちりした感触を出しています」
ベーグルはもともとポーランド発祥のユダヤ人の食べもの。19〜20世紀にかけて北米に移民したユダヤ系ポーランド人により、アメリカ・ニューヨークとカナダ・モントリオールでそれぞれ個性の異なるベーグルが発展したのだと左奈田さんが説明してくれた。
モントリオールはフランス語圏。店名の「もへある」とはモントリオールのフランス語読みである。左奈田さんは大学時代に留学して初めてモントリオール・ベーグルのおいしさに出会い、カルチャーショックを受けたという。
「St-Viater Bagel Shopという人気店では24時間、焼きたてのおいしいベーグルが食べられます。大きな石窯で焼いていて、滑り台から次々に焼きたてのベーグルが滑り落ちてきてカゴの中に入るのが見えるんです。作る工程を見せて楽しんでもらうことにも力を入れていて、私も食で人を喜ばせる仕事をしてみたいと思いました」
そうして左奈田さんは26歳からの2年間、再びモントリオールに滞在して現地のお店でベーグル修業をしたのだった。
さて、モーニングセットの登場! いい色にトーストされたベーグルは香ばしくさっくりとしていて、NYベーグルのぎゅっと詰まった重い食感とはまったく違う。ほんのりした甘みも魅力的で食べやすい。
ポタージュやサラダには、鎌倉のレンバイや直売所、三浦野菜を扱うサスケストアなどから仕入れた旬の野菜を使っており、ゲストハウスに連泊するお客さまが飽きないよう毎日メニューを替えている。
「イギリスから来た女の子たちが、ベーグルに添えたスクランブルエッグが超おいしい!と、ハイテンションでおかわりしてくれたこともありました(笑)」
彼女たちには日本での最高の朝食の思い出になったかもしれない。カフェを開く前に鎌倉ゲストハウスでスタッフとして働いていた時期もある左奈田さんは、海外からの旅行客と気軽に言葉を交わしており、彼女を介して一人で来ていたお客さまどうしが仲良くなることもあるのだ。
「ベーグルは丸い輪っかのかたちなので、ここで人がつながって輪ができていったら嬉しいですね」
コーヒーはご近所のロースター「イマジネーションコーヒー」から豆を仕入れている。今回の散歩コースでも午後にそこを訪ねる予定だと言ったら、「上階のゲストハウスのスタッフたちもみなイマジネーションコーヒーが大好きなんです。ほんの5分だけ寄るつもりが、気がついたら30分おしゃべりしていたなんてことも(笑)」と左奈田さん。
実際に私もその通りの展開になったことは、次の回にご報告します。
べーぐるもへある
神奈川県鎌倉市常盤273-3
TEL 0467-67-6078(鎌倉ゲストハウス)
7:00~10:00(LO 9:30)定休日:不定休
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