第4回 特別編 元書店のカフェでモノレールを見聞しながら
車両と車両を結ぶ連結部を囲む蛇腹。その「蛇腹」つながりで、アコーディオンの弾き語りをするミュージシャン古田朝映さん(以降アサエさん)に湘南モノレールに乗ってもらいました。
大船駅と湘南江の島駅を往復したあと、もう一度下りに乗って湘南深沢駅へ。オリジナルソング「ジャバラの女」を車内や駅で弾き語り(している振り)してもらいましたよ。さあ、そろそろランチにしましょう。
地上に降りて来ると周辺の案内板を発見。
「ここ、ここ、今朝ここから入れ替えの車両が来たんだワ」
車両基地のある引き込み線もしっかり描かれていました。
カタン、カタン、カタン・・・
上から音がして、それがだんだん近づいてきました。
「わーーー!大きい!すごい迫力だワ」
思わず手を振るアサエさん。運転士さんには見えたかもしれませんが、真下だから乗客のみなさんには気づいてもらえなかったのが残念です。
今度は駅の方からカタンカタンと車両が出てきました。
「すごーい、すごい」
「あれ、底にアミが貼ってありますね。部品が落ちないようにかしら。ねじが1本でも落ちて来たら大変ですからね」
と言いながら、ふと何かを思い出したような顔。
「そうえいば、『はぐれねじ』っていう曲もあるんです。ネジってちゃんと締まっているときは全く気にならないのに、1本だけそこにあったら大いに気になっちゃうでしょ」
たしかに。
聞いてみたいけど、お腹が空いたので先を急ぎましょう。
商店街にさしかかると、また上空が気になったアサエさん。
ツバメです。ツバメがいました。そして耳を澄ますと、ピーピーかわいい雛の声がするではありませんか。奥に巣があって雛たちが口を開けていますよ。
「まぁ、まぁ、困ったものよ。毎日毎日入り口に糞がねぇ」
と掃除に出て来た女性。毎年ここに巣を作るので、しばらくは掃除が続くのだそうです。
「でも、ツバメが巣を作るのは・・・」とアサエさん。
「そうなのよ、昔から縁起がいいっていうでしょ。だからこれも喜んでやらなくちゃね」
よく見たらここは「うたごえ喫茶」の入り口。雛たちは幸せのメロディーを歌っていたのです。すてきなシーンに出会いました。
ランチに伺ったのは「栄和堂」さん。40年も親しまれてきたものの店主が亡くなり閉店した書店が、2015年秋にブックカフェとして生まれ変わりました。壁面のサクラ材でできた書棚は、開店当時のままだそうです。
マスターの和田正則さんに湘南モノレール開通時の話を聞かせてもらいました。
「もともとは前の道は有料道路で、その頃は本当に田舎だった」そうで、店も数えるほどしかなかったとか。
「そのうち軌道の建設が始まってね。モノレールだというからドリームランドのやつみたいな跨座式だとばかり思っていたら、いきなりぶら下がって走って来たもんだからびっくりしたよ」
お願いしたランチができるまでゆっくり店内を見せていただきました。
「わっ、これは!」
絵本「モノレールのたび」です。いま書店にも並んでいますが、こちらは当初の「かがくのとも」の付録版。とてもレアなものです。アサエさん、しっかり読みはじめました。「湘南モノレールの歌」(仮題)がひらめいたでしょうか。
「わっ、これもびっくり!」
今度は絵本「ロケット王子」を見つけました。
「最近、作者のまゆこさんと一緒に『ロケット王子』の読み語りライブを始めたんですよ」
なんという偶然でしょう!
ランチは「ホットサンド」のダブルとコーヒー。具を2種類選べるというので、アサエさんは「ハニーマスタードチキン」と「ツナマヨネーズ」を。
「おいしいですね。懐かしいのに新しい。いつも作りたいと思うけどなかなか作れるものじゃないし」
見た目よりもずっとボリュームもあります。
付け合わせのピクルスがとてもおいしいというアサエさん。
「とてもいい感じの箸休めね。お箸は使ってないけど」と笑います。
食べている間も、窓の外をモノレールの車両がお腹を見せながら行ったり来たり。
「でも、そのたびに見上げちゃうのは私たちだけね」
そう、道行く人たちは誰も気にしていません。これが日常の風景なのです。
食後にゲリラライブが始まりました(笑)。アコーディオンの蛇腹を伸ばしたり縮めたりしながら店内を歩き回ります。初めてアサエさんと出会ったときのことを思い出しました。
こうしてジャバラガールことアサエさんの初めて湘南モノレールの旅は終わりました。
今日の印象でどんな歌が生まれるのでしょうか。できたらこのコーナーでも公開したいと思っています。お楽しみに!
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さて、その後、アサエさんから、またまたびっくりするエピソードが届きました。
知り合いが運営する横浜市磯子区にあるイベントスペース「杉田梅の木坂」。江戸時代から梅林で有名だった場所だそうで、その「杉田梅」を復活させるプロジェクトが進行中で、アサエさんも参加しています。今年も梅をもらってきて、いま梅干しにしてる最中とのこと。
なんとその場所で、昭和30年代に浜松町と羽田空港を結ぶ東京モノレールの走行実験が行われていたというのです。モノレールに使われるゴムタイヤの摩擦軽減や騒音解消の実験を行っていたそうで、土に埋もれているものの今でも軌道が残っているとのこと。懸垂式と跨座式との違いこそあれ、またモノレールでつながっていた事実にびっくりしました。
さあ、今度はどんな湘南モノレールバー人(ジン)を空中散歩に連れて行きましょうか。