湘南モノレールに乗っていると、車窓の先に広がる景色に夢中になってしまう。
宙に浮いた車両だからこそ実現できた、見渡すかぎりの異次元パノラマ、そしてダイナミックな開放感。わずか14分の空中散歩の中で、車窓の景色は高速に展開していく。
おお、街を見渡せて空を飛んでいるような気分だ...!
ぎゃ、大船観音像だ!
え、ここで急にタイムワープ空間のようなトンネルを抜けていくのか!
わ、あそこに見えるのは海かな...?
いやー、忙しい。つむじ風のように疾走していく車窓に、どうやっても目が追いつかない。あっちを見たり、こっちを見たり、気が焦るような快感がそこにはある。そして終点に到着すると、まだまだ飽き足らなくて、すぐさま折り返し車両に乗ってしまう。
落ち着きのない楽しさ、心地のよい消化不良感。湘南モノレールの車窓は、胸がせわしく躍る。
この感じって、なにかに似ていると思った。そうだ、食べ放題だ。
ホテルの朝食バイキングって、なんだかそわそわとした楽しさがある。クロワッサン、お粥、ソーセージ、料理人が目の前で焼いてくれるオムレツ、その他諸々のメニューたち。
それらが一堂に並ぶ空間で、私はいつも妙に心が浮足立つ。「これどうぞ」「こっちも見て」「あそこにも色々あるよ」なんて次々に提案されると、目が迷い、オロオロとし、でも同時にその場を支配しているような幸福を感じたりもする。
いってしまえば、湘南モノレールは「車窓のバイキング」だ。
空中を浮遊しているからこそ獲得できる支配的な視点、そこに次から次へと絶え間なく景色が提供されていく。「これどうぞ」「こっちも見て」「あそこにも色々あるよ」。実に車窓のカロリーが高く、どうしたって消化が間に合わないと知りながら、それでも目が泳ぐ。何度乗っても全貌が把握できず、そしてその把握できなさが、なんとも贅沢で幸せだ。
そして。
湘南モノレールの車窓の先には時々、不思議な建築物や正体不明の山などといった、妙に気になる景色が登場する。「あそこにはなにが......?」
そんなクエスチョンが湧くと、車窓をただ眺めているだけでは満足できなくなる。「把握できないことが贅沢」と言っておきながら、それでも車窓の先のまだ知らぬ風味を確かめたくなってしまうのだ。ああ、うずうずする。
よし。こうなったらあの景色の膝元まで歩いて、その正体を明らかにしてみよう。バイキング形式でなく、あえて懐石料理形式で景色をつまびらかに味わってみよう。
こうしてヒマな私は、ささやかな冒険に出かけることにした。
気になるあの景色の奥には、いったいどんな未知が隠されているのだろうか。
まずは、あの山からトライしてみることにしよう。