湘南モノレールの地形菓子をつくろう!と思い立ったのは先回のこと、そこから実作への長い道のりが始まりました。
まずは地形の表現について、先回紹介した「等高線ケーキ」での制作方法を検討してみることに。標高をグラデーションで表現するためにクレープの色を変えながら焼き、等高線のデータに沿って切り抜いて、クリームと交互に重ねる手法です。
以前つくった「等高線ケーキ」。ミルクレープのレシピでつくったもの
ただこのレシピでは、地形は表現できるのですが、上に湘南モノレールを走らせることがうまくできません。2つあるトンネル再現の目処が立たないのです。クリームで挟んだクレープ層に横から穴を開けたらきっと崩れてしまう......、重力に負けてしまうのです。
そこで一から考え直しです。うーん、トンネルを支えるとなると、ある程度の堅さがあり、穴を開けた後に崩れない素材が必要です。チョコレートでは堅すぎるし、ムースやスポンジケーキでは柔らかすぎる。様々な製菓材料を検討した結果、羊羹がよいのでは?と、試作を開始することにしました。
まずは色々な羊羹レシピを参考にしながら、地形らしい色について考えます。こし餡は色が濃いので、白餡に抹茶粉やココアパウダーを混ぜヴァリエーションを増やすことに。配合を変えながら何種もつくり、層状に重ねて色を確かめることにしてみました。次は懸案のトンネル部分、完成した羊羹に横からストローで穴を開けてみると......。試作は成功!重みに負けず、ちゃんと形を保持できていることが分かりました。
材料が決まったら、次はエリア選定です。最初は、地形の凹凸差が大きい場所にフォーカスし、トンネルの再現ができる湘南江の島駅周辺か、西鎌倉駅周辺のどちらかでつくろうと思っていたのですが、やはりまずは湘南モノレールエリアの全貌が見てみたいと再考。全長6.6kmのモノレール全駅ぶんを入れることで試作を進めることにしました。ただ全駅を入れるとなると縮尺がかなり小さくなってしまう......。そのぶん模型自体をできるだけ大きくする方向で検討してみたものの、羊羹全体の型となる流し缶の最大の規格が決まっているため、まずはそのサイズ、135mm×150mmで試してみることにしました。
今回の制作エリア。欲張りにも江の島まで入れてしまった
地形の表現についても、羊羹の場合はこれまで試したような等高線を切って重ねる手法では難しそうです。そこで今回は模型制作の最先端、以前からやってみたかった3D地形模型での制作に挑戦することに。具体的には、3Dデータを元につくった地形模型をシリコンで型取りして、そこに羊羹を層状に流し込む計画です。まずは立体の地形データを取得できる国土地理院の「地理院地図」サイトを使い、3Dシミュレーションをします。
「地理院地図」サイトでは、任意の場所の3Dをぐるぐる回しながら見ることができる。誰でもフリーで使えるお薦めサイト
模型では通常高さ強調をする必要があり(そうしないと街の模型はほぼ単なる平面になってしまう)、地理院地図のシミュレーションでは高さ強調を6倍にしていますが、この強調の調整が実はとても難しい。湘南地方が山岳地帯に見えてはいけないし、のっぺりした平野ではそもそも模型が成立しない......。ここでギブアップ!これ以降は専門技術と知識が必要です。
そこでニシムラ精密地形模型の社長、大道寺さんに相談します。ニシムラ精密地形模型とは、NHKブラタモリ番組内での模型や、博物館に常設されている模型など、数々の制作を手がけられてきたエキスパート集団。最初に「地形模型を使ってお菓子がつくりたいのですが」とご相談をした時はちょっとびっくりされていましたが、次第に面白がって色々とアイデアも出してくださるほどに。自然な地形に見えるよう標高毎に詳細な調整を施した模型制作からシリコン型の制作まで、快く引き受けてくださいました。よくぞこんな謎深く、且つ、小規模な相談にも丁寧に乗ってくださったかと思うとありがたい限りです......。
そしてご依頼してから一週間ほど、「型が完成しました!」との連絡があり、早速受け取りに伺ってきました。
できた型がこちら!右が模型で、左がそれを元に模ったシリコン型
模型とシリコン型、2つを重ね合わせるともちろんぴったり
帰りの電車内では、我慢ができずシリコン型を何度もカバンから出しては触って確かめていたのですが、思っていた以上の地形のリアルさに期待が高まります!
パソコンの前に戻り再度、カシミール3Dのソフトを使って、標高毎のグラデーションになるよう調整した色の見取り図を作成します。最初の羊羹試作結果を元に、細かな色を決定。標高40-70mの部分は濃い抹茶羊羹、標高10-40mは薄めの抹茶羊羹、標高0-10mまでは白餡羊羹の3層に、地底にココア羊羹とこし餡羊羹の2層を足した計5層で計画。いよいよ次回は実作に入ります。
色の見取り図。カシミール3Dで制作