整備場の見学のあと、「洗い場」と呼ばれる場所に移動した。
「洗い場」に車両が止まっている
ふだんはここで車両を洗うんだろう。ただしきょうは洗車体験ではなく、なんと本物の運転席で車内アナウンスやドアの開け閉めの体験ができるらしい。
これってすごいことだ。だって、運転席ってふつう先頭車両から眺めるだけのものでしょう。
運転席は後ろから眺めるのみ
なのに、このドアの向こう側に入れて、それだけじゃなくて運転台やマイクにさわれちゃうというのだ。こんな体験をさせてくれる見学会はいままで見たことない。
現役の運転手の北条さん
「運転手の北条と申します、よろしくお願いします。」
現役の運転手である北条さんが、運転台の操作を教えてくれるという。
息子の番が来た
ついに運転席に入る番がきた。後ろから眺めるだけだったあの場所に立って、コントローラーを触っている。
右手で触っているのがマスターコントローラー(マスコン)と呼ばれるやつだ。いまは非常ブレーキの位置に入っている。これを手前に引くと「力行」、つまり加速していくんだけど、いまは動かないように固定してある。
間近で見るマスコンがかっこよすぎる
そして「マイクでアナウンスしてみる?」と北条さんに聞かれたときの表情がよかった。
連れて来てよかった
北条さんが左手に持っている紙には、実際の車両アナウンスのパターンがいくつか載っている。どれかを選び、本当にお客さんが乗っていると思って一字一句そのとおりに発音する。
息子が選んだのはこれだ。
「お待たせいたしました、この電車は、江の島行きです。」
車内にアナウンスが響く感じはふだんのまま、声だけが息子のものになっている。小さいころから山手線の車内アナウンスをよく練習していたおかげか、他のお客さんからも「上手だね」と声をかけてもらう。
そこに車掌の大谷さんという方が来て、「もっとよくなる方法があるよ」と教えてくれた。
「ここの句読点でしっかり区切るんだ。」
大谷さんによると、アナウンスの句読点にあたる部分をしっかり休むのがいいそうだ。それを聞いた息子は、改めて次のようなイメージで読んでいた。
「お待たせいたしました。この電車は。江の島行きです。」
おお、それっぽい。言われてみると本職の方のアナウンスってちゃんと区切ってるなあと初めて思った。
「これが一番重要です。」と大谷さん。「しっかり区切らないと、お客さんの頭に入ってきません。それに、ふだんから区切ることを意識すると、異常があったときにも落ち着いてアナウンスできるんです。」
アナウンスのあとは、ドアの開け閉めを体験させてもらった。
「ドアが閉まりまーす」
プシュー!と言いながら本物の車両のドアが閉まる。こんな体験ははじめてだ。嬉しくて何回も何回もやらせてもらう。
そのときの大谷さんの息子を見守る目がやさしかった。
やさしい目
こういうのってうれしい。ありがたいし、原稿を書きながら思い出してちょっとうるっとくる。
また、次回。