さて、子供の森を後にした変形菌探索隊一行。とにかく広い鎌倉中央公園なので、ポイントを変えて変形菌を探すことにした。
次なる舞台は「疎林広場」から「野外活動体験広場」へと抜ける階段。公園の中央あたりに位置する。階段の脇には、落ち葉や枝が積み重なっている。
青々した木々に囲まれ気持ちが良い。足元にところどころシダ植物が生えているので、地面に水分もありそうだ。
「疎林広場」から「野外活動体験広場」へ抜ける階段
境野さんのガイドのもと、落ち葉や丸太をひっくり返し、各自黙々と変形菌探しに没頭する。
黙々と変形菌を探す探索隊一行(撮影:宮田珠己)
ここでは、変形菌の「変形体」を見ることができた。
変形菌の「変形体」
「変形体」とは、変形菌の一生のうち「子実体」になる前の状態。ネバネバした網目状の状態で、自由に体の形を変化させ、餌を求めて動きまわる。
変形菌学者としても知られる南方熊楠は、この変形体の外観を「混沌たる痰」と言ったそう。すごい表現だ。
この変形菌が、全然違う見た目の「子実体」へと変化するというのだから不思議だ。
変形菌の「子実体」
それにしても変形菌観察初心者には、変形菌とその他を見分けるのがなかなか難しい。
落ち葉や樹皮の上に、変形菌らしきものを見つけ「お!これは変形菌か?」と思っても、カビだったりきのこだったりする。
とにかく素人目には、見た目がそっくりなのだ。
変形菌の子実体に似ているが、きのこの子実体
きのこの菌糸
変形体に似ている気がするが、境野さん曰く変形菌ではないとのこと
カビやきのこは菌類で、変形菌はアメーバの仲間。見た目は似ているが、異なるグループに属する。
またカビやキノコは生物の死骸やフンなどを分解して無機物にする「分解者」だが、変形菌はその「分解者」を餌とする、という違いもある。
見た目ではどう見分けたら良いのだろうか。
変形菌の子実体の場合、中に胞子が入っているので触ると潰れるが、カビやきのこの場合は触ると硬く、潰れないことが多いそう。そしてきのこの場合、傘の部分の裏にひだが付いていることが多い、というのも見分けるポイントの一つだそう。
変形体の場合は、カビと比べて表面に粘り気があることが多いようだ。
しかしこればかりは、とにかくたくさん目で見て、徐々に見分ける感覚を身に着けていくのが一番なのかもしれない。
カビやきのこ自体、まじまじと至近距離で観察することがなかったので新鮮だが、それらの似たような生き物の中から変形菌を探し当てた時は、思わず「よっしゃ」と声をあげたくなる。
変形菌に出会えた時は喜びもひとしお
なおここでの変形菌観察中、なんと「冬虫夏草」も見ることができた。
冬虫夏草
冬虫夏草とは、虫の幼虫に寄生するきのこの一種。冬の間に虫の中で育った菌が、春から夏にかけて発芽して地表に出てくる。唐辛子のような見た目だが、線の入った部分が元・幼虫で、右側の茶色い部分がきのこの子実体。
触ってみると、思ったより硬い。
子どものうちに菌に侵入され、やがて蝕まれてしまうというのはものすごい仕組みだが、これも自然の一側面だ。
それにしてもわずかな範囲で、様々な生き物に出会えた。
落ち葉や丸太をかき分けると、ミミズやダンゴムシをはじめ、たくさんの虫がざわざわざわ、と蠢く。何の気なしに蹴っ飛ばしたり踏みつけたりする空間にも、生き物の暮らしが存在することを垣間見た。
以前鎌倉中央公園を訪れた際には素通りした階段だったが、変形菌目線だと宝の山なのだった。
この丸太の裏側は様々な生き物の住処
丸太は元に戻しておいてくださいね、という境野さんのアドバイスを受け、観察のために裏返した丸太をそっとひっくり返し、次のポイントへと向かった。
〈変形菌観察ことはじめ・ワンポイントメモ〉
・変形菌によく似た仲間に、カビやきのこがいる
・観察のためにひっくり返した丸太は、あとでもとに戻しておこう
参考文献:
『観察から識別まですべてがわかる!変形菌入門』(川上新一・新井文彦・高野丈/文一総合出版)
『粘菌生活のススメ: 奇妙で美しい謎の生きものを求めて』(新井文彦・川上新一/誠文堂新光社)