普段生活していて接する一番小さいものはなんだろう、と考えてみる。
米粒、ゴマ、パン粉、きな粉。
一粒一粒は小さいものの、たいていは手に取れるまとまった状態で見ており、一粒をしげしげと眺めることは滅多にない。
街を歩いていても、目に止まったり気になったりするのは、ほとんどの場合、肉眼で目に付きやすい物体で、肉眼だとなかなか見えないサイズのものは、普段の暮らしで意識することはあまりない。
公園のはじっこに積み上げられた落ち葉や枝。たいていわざわざ意識せず、また視界に入ったとしても「ああ、落ち葉だな」と通り過ぎてしまう存在だろう。しかしその重なった落ち葉の中には、じつは小さな小さな生き物の世界が広がっている。
「変形菌」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「粘菌」とも呼ばれる(※正確にいうと、変形菌は粘菌の一種。虫の中に昆虫が含まれるのと同じ関係だ)。
「菌」とつくが、カビやキノコなど菌類ではなくアメーバの仲間。アメーバと言われても、なかなかぴんとはこないかもしれない。この変形菌、落ち葉や切り株の上など、意外にも身近な場所に潜んでいる。
変形菌の「子実体」(撮影:境野圭吾)
変形菌は、あるときはアメーバ、あるときはキノコのような姿と、一生の中で全然違う見た目になるとても不思議な生き物だ。アメーバみたいな状態を「変形体(へんけいたい)」、キノコのような状態を「子実体(しじつたい)」という。
変形菌の「変形体」
「変形体」は、粘液状の姿で自由に体の形を変化させて、落ち葉や倒木の上を動き回っている。バクテリアなどの餌を食べてある程度の大きさになると、胞子(子孫)を飛ばすため「子実体」に変化する。子実体は種類によって色や姿形が様々。図鑑をパラパラとめくるだけで、虹色、オレンジ色、青色...など、とにかく色とりどりのデザインが楽しい。
図鑑を開くといろんな色が飛び込んでくる(『観察から識別まですべてがわかる!変形菌入門』(文一総合出版)p58-59より)
前々から気になってはいた変形菌。なんと梅雨から夏にかけては観察のベストシーズンとのこと。それはぜひとも実物を見てみたい!
そう思い、湘南モノレール沿線へ変形菌探しに出かけることにした。
そうは言っても変形菌素人のわたし。なかなか一人で探すのは大変そうなので、強力な助っ人をお呼びすることにした。変形菌探しのガイドは境野圭吾さん。『観察から識別まですべてがわかる!変形菌入門』(https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-7393-6/Default.aspx)という本を編集された変形菌通だ。
変形菌を探す境野さん
当日集まったメンバーは、境野さんのほか、鎌倉の地理や植生に造詣が深いネイチャーガイド・佐々木知幸さん、鎌倉のボランティアガイド・喜清みずほさん、湘南モノレール広報・池田里麻子さん、エッセイスト・宮田珠己さん、そして村田の6名。
このメンバーで、変形菌探索に出かけた。
〈変形菌観察ことはじめ・ワンポイントメモ〉
・変形菌はアメーバの仲間
・一生のうち「変形体」や「子実体」といった全然違う見た目になる
・梅雨から夏が観察のベストシーズン
参考文献:
『観察から識別まですべてがわかる!変形菌入門』(川上新一・新井文彦・高野丈/文一総合出版)
『粘菌生活のススメ: 奇妙で美しい謎の生きものを求めて』(新井文彦・川上新一/誠文堂新光社)