江の島への近道 湘南モノレール株式会社

大船のメロン編(2) 大船農園のメロン

 オサラギ商事さんでは、会議机の上にズラリと資料を並べて出迎えてくださった。

 企画内容をお話して、

「噂にだけ聞いていた大船のメロンの謎をぜひ解きたいと、探偵のような気持ちで参りました」と私がお伝えすると、

「これがそのメロンです」と、

早速モノクロの写真を見せてくださった。

メロン.JPG
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メロン(アップ).JPG
【写真】オサラギ商事株式会社提供(下は同じ写真の拡大。シールには縦書き2行で「大船農園」とある)
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 とても立派だ。品評会で優勝し、昭和天皇に献上されたというのも、至極当然と感じさせる美しさがある(メロンに貼られているシールに「大船農園」とあるのが見える。これがメロンを作っていた農園の名前)。

「大船農園」は広さ3千坪、敷地には温室がずっと立ち並んでいたという。3千坪というのは、別の単位でいうと約1万平方メートルで、1ヘクタールほどの広さになる。下の写真からは、その広さが伝わってくる。

大船農園(全景).jpg
【写真】農園全景 オサラギ商事株式会社提供。
写真右手がメロン栽培の温室(ハウス)。左手奥に小さいが「大船農園」と看板が出ているのが見える。写真左あたりが現在のJR大船駅の笠間口。ちなみに石垣苺も栽培していた。そして、後に触れるが先代は犬のブリーダーもやっていたそうだ(「犬の家」とあるのが、そのための施設)。ハウスの奥に小高く見えるのは「セメント山」。
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大船農園(違う確度).JPG
【写真】オサラギ商事株式会社提供。
別の角度から写した農園の一部。看板がはっきりと見える。
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 先代が大船に農園を開いたきっかけはなんだったのだろうか?

 昭和の初頭、先代は、いい水の出る土地を探していた。当初から、メロン農園をやろうと考えていたらしい。最初は戸塚のあたりを検討していたが、最終的に大船の駅前のこの土地に決めた(昭和5(1930)年ごろ)。

「敷地のなかに井戸がありましてね。榊をこうやって手に持って、(水の出るところは)ヒュッと下がるとかいうので」と笑いながら教えてくださる林川さん。

 なんとダウジングの原理で井戸を掘り当てたそうだ。よくあったことなのだろうか。榊を使うというのははじめて耳にした。

 大船周辺で、昔のことを聞いたり調べたりしていると、こうした「いい水が出るから」という話に行き当たることが多い(そもそも「大船田園都市計画」の用地選定のさいにも飲料水にできる水が出ることが理由のひとつとなっていた)。

「ここは昔は『笠間町(かさまちょう)字(あざ)岩井口(いわいぐち)』っていう町名だったんです。「岩井口」という名称は地下水が豊富だということなんですね。ここは多摩丘陵の一番外れになるんです。多摩丘陵が大船で地面に潜り込んでいまして、その外れにあって、水位が高いんですね」

 土地の断面図が浮かんでくるような、規模の大きいお話で、なんとも興味深い。

「最初に掘ったところは出なかったんです。2つ目に180間(約330メートル)掘ってやっと自噴した。地面の上まで噴き上げてきました」

 夏には冷たく、冬には温かい(井戸水は冬には温かく感じられるのだ!)水で、年中かれることがなかったという。こちらでは、長い間、生活用水として、飲料水として大切にこの掘り抜き井戸の水を使ってきたそうだ。

 無事に出たこの「いい水」のおかげで、大船農園のメロンは品評会で優勝するまでになったのである。

 林川さんが持ってきてくださった秘蔵資料はまだまだある。続いて、「こういうものもあるんです」と笑顔を浮かべながら見せてくださったのは、大船農園の手ぬぐい。

大船農園(手ぬぐい全).jpg
【写真】手ぬぐい、オサラギ商事株式会社提供。
写真・画像の無断転載禁止

「わかりますか?」と林川さんがクイズを出すように問う。

「あ!わかりました!これ、温室の...」

「そうなんですよ、ハウスの断面なんです。ここが入り口なんです。それでこういうのがずーっとあったんです」と林川さん。

 メロンの温室が並ぶ様子を意匠にして、藍の濃淡ある模様に仕上げてある。今見ても、とても素敵なデザインだ。欲しくなってしまう。

 左下には「大船驛前 大船農園 電話十五番」とある。電話番号がふた桁なところに時代を感じる。右上にあしらわれたメロンのイラスト。添えられた「ンロメ」という文字に、一瞬「?」となるが、当時は、横書きであっても右から表記するのが普通だったのだ。大船農園が営まれていたのは、昭和5年から終戦の少し前ぐらいまでのことである。

 国土地理院のホームページで、航空写真を閲覧できるサービスを使い、当該のエリアの古い航空写真を探してみた。1944年のものが一番古かったのだが、ピントが今ひとつだったため、少し後のものになるが、よく見えるものを選んだ。これは1946年8月に米軍が写した一枚。ちょうど終戦から1年後だ。

国土地理院USAR227-A3-206 (19460815s21)marked02.jpg
【航空写真】「空中写真データ」(国土地理院) 撮影年月日 1946(昭和21) 年8月15日
(http://mapps.gsi.go.jp/contentsImageDisplay.do?specificationId=1176715&isDetail=true)をもとに筆者が作成。
写真・画像の無断転載禁止

 前回掲載した、現在の地図と見比べてみて欲しい。オー!プラッザのあった場所と、この航空写真の大船農園の場所が見事に符合していることが分かる。

 写真右下には、田園都市計画を経て碁盤の目状となった街並みが見て取れる。連載の第2回で取り上げた銀杏並木が、駅前から松竹通りに整然と列をなしているのも分かるだろう。砂押川には細い橋が架かっている。

 紫で囲んだあたりが大船農園。そのなかに、斜めに並んでいる線がうっすら見える。これがきっとメロンのハウスに違いない。(ちなみに、地図上で敷地の下の方に木々に囲まれているように見える箇所に、後に「大佛旅館」として使われることになる家屋(母屋と離れの2棟と庭)が位置していた)

 ここで「大船メロン」が栽培されていたのである。大船家具の関さんが若い時分に田園理容室のご主人から聞いたままに覚えていた「大船のメロン」の全容が、ようやく明らかになった。

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本業と母業のすき間を縫って、年に1回というスローペースながら、あふれる大船愛をぎゅうぎゅうに詰めた「新聞」を刊行中。
ぜひ本誌もお手に取られてください。
編集部から「陽」と「細」がこちらのサイトで記事を書きます。
・バックナンバー:創刊準備第1号(2015年)、創刊準備第2号(2016年)、創刊号(2017年)
※創刊準備第1号、第2号は大船駅東口の商店街を特集しました。街歩きに便利なMAPつき記事となっています。
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