江の島への近道 湘南モノレール株式会社

ほじくり湘南モノレール(6)

 湘南深沢駅のあたりからは、広大な空き地が見えます。通称「サバンナ」。JR大船工場の跡地らしい。いずれ再開発されてしまうんだろうけど、このサバンナぶりもなかなかよろしい。ということで、湘南深沢駅で下車。
全線ざっと見てきたけど、ここは途中駅ではいちばん栄えてそうな雰囲気です。といっても古めの小さな商店街がある程度なんですが、その古い商店街のなかに極太のモノレール橋脚が並ぶ姿には違和感がありまくりで、あいかわらずステキ。スーパーの上がマンションになっていて、そこをモノレールが取り巻いている姿なんていかにもレトロフューチャーで高度経済成長期です。
 こんな大好物の街並みを眺めながら、道路からそれていくレールに沿って私たちは道の西側に入ってゆく。ここはしょもたんの車庫なのです。空中の寝室に、車両が毎晩吸い込まれていくのですね。
 車庫の建物は湘南モノレールの本社でもあります。というか、事務用の建物が車庫の下にくっついている感じです。宮田さんのつてもあり、今回は本社に入れていただけることになりました。尾渡社長はこんな連載企画をするだけあって、ウェルカムムードがすごい。ありがたい。本社の建物も、開業した昭和40年代の雰囲気をありありと残していてグッときますね。
 本社から真上にのぼるとそこは車庫。車両はもちろん吊されて浮いた状態で止まっているので、ものすごく近くで車両の底が見えます。電車の屋根は歩道橋から見えることがあっても、底を近くで見ることなんてまずありえない。車両を吊り下げている部分には巨大なゴムタイヤがついていて、しょもたんはこれで走るのです。外から見ると空中に浮いた車庫の入り口から車両が少し顔を出している状態なので、戦隊モノのロボが「発進!」と出て行く感じで、かわいいです。
 しかし私はメカのことは趣味外。私が萌えてしまったのは断然「看板」だ。
 駅に掲げられていた歴代のひらがな看板が、車庫にたくさん陳列されている!私はこのタイプの「鉄道文字」が好きなのです。まだ広範に利用されるフォントが定まってなかった頃の、丁寧に手書きで書かれた文字や記号の類。
 しょもたんで使われる看板の雰囲気は、西武線に似ています。「湘南」がつく駅名の場合、「しょうなん」の文字が少し小さく書いてあるのがかわいらしい。国鉄だった時代のものか、かつての「東日本線連絡運賃表」という巨大な路線図があるけど、これも見事にすべて手書きです。どこの駅から持ってきたのか、「2深沢/西鎌倉/江の島海岸方面」という看板の字体もいかにも手書きレタリングで、たまりません。ああ、いいもの見せていただきました。
 ここ、別に展示室として整備されているわけでもないのに、車庫の隅に看板が整理されて並べてあるのがすばらしい。「大船⇔江の島/ありがとう300型」という看板の周りには、使われなくなった300型の車両に挿して使われていたと思われる行き先表示の看板が丁寧に並べられていて、十分に歴史の資料となっています。たまたまここに入ったお客さんはいつでもこれを見られるように整備されているんですね。
 車庫を出ると、小さな商店街のなかほどに「栄和堂」があります。ここは、明らかに「商店街唯一の書店」といった佇まいなのに、喫茶店のようなマークが付いている。何かと思えば、一度閉店してしまった本屋さんがブックカフェとして再開したもので、たまにイベントなんかもやるらしい。
田舎のほうの、少し元気がなくなった商店街を活気づけたいという意欲のあるお店にこういう文化の香りがただようことってあるよね。こういうお店に出会うとけっこう遠いところまで旅に来た感じがする。鎌倉市内なのに、鎌倉的なものとは全く違うカルチャーがここにはある。もちろんお茶をいただいて、宮田さんと小休憩しました。ここでしょもたんとコラボして、何かイベントをやったらいいと思うんだ。
 湘南深沢の駅のホームに戻り、ふと気づきました。ホームの「1西鎌倉/江の島方面」と書いてある看板、さっき車庫にあったものとデザインが全く同じです。さっきのは古くて撤去されたものと思ってたら、この駅ではまだまだ現役だ。開業時の雰囲気はこの駅周辺がいちばん残しているかもしれない。

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能町みね子
北海道出身、茨城県育ち。
著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』『雑誌の人格2冊目』(いずれも文化出版局)、
『お家賃ですけど』(文春文庫)、『うっかり鉄道』(メディアファクトリー)、『能スポ』『能サポ』(いずれも講談社文庫)、
『逃北』(文春文庫)、『ほじくりストリートビュー』(交通新聞社)など。
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