地図と路線図が大きく異なるポイントは、路線図には「時空のゆがみ」がある、ということ。何が起こっているかというと、例えばこんな感じである。
(みなとみらい線みなとみらい駅で撮影)
横浜のみなとみらい駅と、埼玉の飯能駅がものすごく近い。徒歩で行けるんじゃないか、という距離である。よく見ると渋谷より「下」に新宿や池袋があるし、北に行くにつれ右回りに渦を巻いている。
狭い範囲に5社5路線を収めるためには、地理上の位置関係を無視して時空をゆがませるしかない。でも、「路線図」として見るとそんなことが全然気にならない。駅と駅の関係だけわかればいいのだ。
さて、「まっすぐ路線図」の湘南モノレールに話を戻すと......
(公式ホームページ「運賃・時刻表」より)
......ゆがみようがないじゃん真っ直ぐだし、と思うだろう。8駅の長さだから折りたたまなくてもいいし。いや、でも、よーく見ると歪んでいるのだ。「駅間の距離」である。
等間隔で並ぶ駅のあいだに、時間と距離が併記されている。どれも同じ長さの直線なのに、距離は0.4km~2.1km、時間は1分~3分と開きがある。数学どころから算数でも怒られるやつだ。でも多くの人々は気にしないですよね。
右が大船?左が大船?
大事なのは距離よりも駅の並び順。リアルよりもわかりやすさ優先。「1日フリーきっぷ」だってそうである。
(「1日フリーきっぷ」より)
「Enjoy空中散歩」のかわいいイラストと共に、路線図が描いてある。モノクロの表記に、円・直線・文字と、最もシンプルな形。駅名の頭とお尻のラインを揃えるために、2文字から5文字まである駅名が均等に割付されているのも美しい。
実は、ここまで見てきた2つの路線図、「公式ホームページの路線図」と「1日フリーきっぷ」には共通点がある。「大船駅が左、湘南江の島駅が右」に描かれていることだ。
他の湘南モノレールの路線図は、北を上とする地図の書式にならい「湘南江の島駅が左、大船駅が右」に書いてある。例えば大船駅の「運賃表」はこう。
(大船駅の運賃表。大船駅が右端、湘南江の島駅が左端)
「細かいことが気になってしまうのが私の悪い癖でして......」と言う水谷豊の影がちらつくほどの細かい点であるが、どうしても気になる。
路線図を見るとき、目も動いている
ホームページもフリーきっぷも、どちらも「駅に掲示されている路線図ではない」というのがポイントだろうか。
ホームページは文章が、フリーきっぷは切符の表記が、それぞれ路線図に併記されている。文字情報を読み取るとき、視線は左から右へと動く。これにならい、文字情報と一緒に記載される路線図も「大船→湘南江の島」と、左から右へ下り方面の流れを作ったのかもしれない。
ちなみに、左右だけでなく、上下の動きがついた路線図もある。
(フリーきっぷ協賛店一覧より)
1日フリーきっぷを買うともらえる「フリーきっぷ協賛店一覧」の裏面に記載されている路線図だ。西鎌倉駅を中心に所要時間をわけ、駅員やトイレといったピクトグラムも付いている。
大船→湘南江の島の流れは上から下へ。まさに水が流れるがごとくの「下り方面」なのだった。