さて、唐突ですが、ここで宮田珠己さん登場です。
もともと、湘南モノレールもこのミニ連載も、私は宮田珠己さんに紹介されて知ったもの。この西鎌倉近辺には宮田さんオススメの場所があるということで、さきほどの「新鎌倉山」とは逆の方向へ歩きはじめる二人。
えー、ところでですね、春に掲載しておいて季節外れで申し訳ないんですが、実はこのお散歩はだいぶ前の、ずいぶんと暑い日に行われていました。よく日焼けし、いかにも健脚という感じの宮田さんは山道といってもいいような切り通しの坂をずんずん進んでいく。私はあとからヘロヘロになりながらついていきます。
すると、山肌のどてっぱらに突如穴が空いてて、その入口に「ヤマノイハイツ手広」という看板があります。
「すごいでしょう、これ」
宮田さんがシンプルな同意を求めてきます。このトンネルの向こうに「ハイツ」があるってこと?穴の奥には確かに古いアパートらしき建物がチラリと見えるけど、これはアパート専用のトンネルということなのか。それは確かにすごい。
「いや、専用じゃないです」
......なるほど。とりあえず入ってみないと分からないですね。
トンネルをくぐってみると、かなり年期の入ったたたずまいのアパートがありました。しかしそこから左側に抜けて下がっていく道もある。このトンネルは、主にこのアパートの人が恩恵を受けられる近道ということなのですね。純粋にアパートのためのものではないとしても、こんな構造はほかになかなか見られるものじゃない。傾斜地の多い鎌倉らしい風景です。
アパートから先に坂を下りていくと急に風景がひなびて、谷間に細い道が延び、かやぶき屋根の家まで見える。ちょっとこれは取ってつけたような建物では?と思いましたが、この建物は江戸末期から明治初期の建築で本当に古く、「成瀬家住宅」として鎌倉市の景観重要建築物に指定されているのでした。失礼しました。
しかしそれより気になってしまったのは、その成瀬家のすぐとなりにそそり立つ、巨大な橋脚のようなコンクリート建造物です。歴史ある建物をずどーんと圧迫。なんだこれは。
回り込んで分かりましたが、これは新興住宅地の土台なのでした。また別の方向から入ってくる高台側に住宅地は建設されていて、高さの帳尻を合わせるためにすさまじい土台が作られているのです。しかも、土台の中ほどに急に墓地がある。お墓ばかりはみだりに動かせずこんなことになってしまったということか。かなりの異様さです。
面白い景色ではあるけど、周りがあまりにもほのぼのした農村風景でかやぶき屋根もちょうど合う景色だけに、コンクリートの土台はもう少し成瀬家に配慮してもよかったんじゃないの......。風情ってものをもう少し考慮してくださいよ、なんせ鎌倉なんだから!
トンネルよりも、そこから続いて広がっていく人工の絶景に心を持って行かれ、なんとも複雑な気持ちになりつつ私たちは次の駅へ向かう。
ほじくり湘南モノレール(5)西鎌倉その2
2018.03.07
能町みね子
北海道出身、茨城県育ち。
著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』『雑誌の人格2冊目』(いずれも文化出版局)、
『お家賃ですけど』(文春文庫)、『うっかり鉄道』(メディアファクトリー)、『能スポ』『能サポ』(いずれも講談社文庫)、
『逃北』(文春文庫)、『ほじくりストリートビュー』(交通新聞社)など。
著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』『雑誌の人格2冊目』(いずれも文化出版局)、
『お家賃ですけど』(文春文庫)、『うっかり鉄道』(メディアファクトリー)、『能スポ』『能サポ』(いずれも講談社文庫)、
『逃北』(文春文庫)、『ほじくりストリートビュー』(交通新聞社)など。
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