乗り物には、それを動かす人がいる。
大船から江の島へ、江の島から大船へ、安全かつ快適な空間づくりを心がけつつ、
レールの下を行き来する、懸垂式モノレールの運転士さんってどんな人?
ということで、若手とベテラン、ふたりの"空の仕事人"に、
仕事からプライベートまで、たっぷりとお話を伺いました。
登場する運転士さん
左/石野智弘(いしの・ともひろ)さん
29歳。乗務歴10年。横浜市戸塚区に生まれ、高校時代に片瀬山に転居。現在も同在住。
右/寺田勇一(てらだ・ゆういち)さん
53歳。乗務歴34年。横須賀市生まれ、大和市育ち。現在は、妻と子とともに沿線在住。
聞き手/大谷道子、宮田珠己
モノレールは「扱いやすい」乗り物
──はじめまして。勤務日にお邪魔してすみません。寺田さんは今日は午後から、石野さんは予備勤務の日と伺いました。
寺田 はい。よろしくお願いします。
石野 私は、今日は乗務員が体調不良になった場合の代理や、沿線で故障や救護対応が必要になったときの要員です。
──えーと、まず、運転士さんって何人いらっしゃるんですか?
寺田 今は......20人? 定員は22人ですけど。
石野 20人ですね。この間、国家試験に2人合格したので、もうすぐ22人になります。
──やっぱり、国家資格が必要なんですね。
寺田 皆、同じのを持ってるよね。えーと、何だっけ?
石野 「甲種電気車運転免許」。電車を動かす人は皆持っている免許で、都電荒川線や広島の路面電車などは乙種だそうです。
寺田 そうそう。詳しい人がいてくれてよかったなぁ(笑)。僕は古株なので他社の教習所で免許を取りましたが、彼は自社養成の運転士です。
石野 最初に学科試験があって、それに合格すると、見習いとして「師匠」と呼ばれる先生について、乗務しながら学びます。
──師匠! 何だか、白くて長いヒゲが生えていそうですが......。
石野 いえいえ、普通のおじさんです(笑)。学科3ヶ月、実地訓練3ヶ月で、だいたい半年くらいですね。
──免許が同じということは、モノレールと電車の運転って、実はあまり違わないんですか?
石野 そうですね。仕組みや動かし方は、ほぼ同じだと思います。
寺田 違いといえば、モノレールはゴムタイヤだっていうところですね。レールの部分を桁(けた)と呼ぶんですが、そこをゴムのタイヤで走る。鉄のレールに鉄の車輪が乗る普通の鉄道は摩擦が少ないけど、ゴムは摩擦が大きいので止まりやすい。何て言うか、普通の車の感覚でいけるって感じだよね。
石野 はい。普通にブレーキをかけたときの感じで止まれます。それに、桁の部分が隠れているので、よっぽど雨が吹き込んだりしない限りは影響を受けにくくて、毎日同じ感覚で運転できるのも懸垂式モノレールの特徴。つまり、扱いやすいんだと思います。
──でも、レールが下じゃないあたりからして、他の電車とはかなり違いますよね。運転のし心地も違うのでは?
石野 それは、やっぱり違い......ますね。
寺田 カーブでは必ず振り子みたいな揺れ方をしますから、制限速度をちゃんと守らないと......。
──ジェットコースターみたいに揺れるとか?
寺田 まあ、そうですね。単線ですから、我々のダイヤって、たとえばラッシュ時の混雑で乗り降りに時間がかかったりとか、運転士のところに精算のお客さんが来られたりとか、何かあると30秒とか1分とか、すぐ遅れるんですね。そういうとき、一所懸命巻こうとして、ギリギリまでスピードを上げて走ると......たとえば、富士見町の下りで待っているとき、湘南町屋のカーブを抜けて出てきた上りの車体がガーッと傾いていたりするのを見ると、「おお、あいつ頑張ってるな〜」って。
石野 ハハハ! そんなふうに見られていたとは。
──仕事場、高いところにあるじゃないですか。ぶっちゃけ、高所恐怖みたいなことって、感じないですか。
石野 子どもの頃から見てますし、高校の頃から乗っているので、私はとくに......。「まあ、モノレールはこういうものかな」と。でも、ジェットコースターは苦手なほうなんですけど(笑)。
寺田 僕は......話すとちょっと長くなるんですけど、いいですか?
──どうぞどうぞ。
寺田 仕事柄、しょっちゅう「ここで地震が起きたらどうなるかな」というのは考えているんですが、東日本大震災のあと、子どもとお台場の遊園地で観覧車に乗ったことがありまして、上がっていく最中、ふと「今、ここで地震が起きたら」って考えた。まず電気が止まる、ジェットコースターならレールがあるから伝って降りればいいし消防車が来れば大丈夫だけど、ここは何もないな......そう思ったら、「怖い!」って。そのとき、初めて意識しましたね。それ以来、モノレールより高いのは怖いなと思うようになっちゃいました。
──じゃあ、ロープウェーなんかは。
寺田 怖いですねぇ。落ちるときは真っ逆さまでしょ? 東京タワーとかスカイツリーとか、どんなに高くても、階段があったりして降りる方法があると思えるものが、自分的には安心です(笑)。
→Vol.2に続く