モノレールに乗って、日々、空を行く。そんな方々にも、
はるか頭上にモノレールを見上げた時代がありました。
運転士さんの頭の中と心模様に迫る、対談連載。
今回のテーマはずばり、「私がモノレールに乗った訳」。
登場する運転士さん
左/石野智弘(いしの・ともひろ)さん
29歳。乗務歴10年。実は、筋金入りの「◯ちゃん」です(読めばわかる)。
右/寺田勇一(てらだ・ゆういち)さん
53歳。乗務歴34年。筋書きのないドラマを生きてます(読めばわかる)。
聞き手/大谷道子、宮田珠己
求む! 「空気が読める人」
──話が変わりますが、おふたりはどうして運転士になろうと思ったんですか?
寺田 君は......あれだよね。
石野 はい。私は、小さい頃から鉄道の運転士になるのが夢で。
──いわゆる「鉄ちゃん」?
石野 まあ、今でいう「鉄」でしょうね。写真を撮ったりもしてたんですけど、私は旅行のほうが好きで。中学の頃から、友達とフリーきっぷで回ったりとかしていましたから、「乗り鉄」? で、夢を追いかけていたら、モノレールにたどり着いたという......。
寺田 彼は、鉄道学校(鉄道について学ぶ職業高等学校。日本に2校存在)の出身ですからね。俺、そんな学校があるなんて、会社に入るまで知らなかったなぁ。
──じゃあ、筋金入りだ。ご両親は賛成だったんですか。
石野 最初は、まあ、ちょっと渋られましたよね。将来のことを考えたら、やっぱり普通に高校に行って、大学に行って......っていうのは、親のほうにはあったと思うんですけど、私の時代は、乗務員の採用は大学(卒業)からだと少ないよと言われていたので、じゃあ高校から行ったほうがいいなと。
──神奈川に数ある鉄道の中から、なぜ湘南モノレールを?
石野 えーと、本当は江ノ電に憧れていたんです。私はぜんぜん記憶にないんですけど、両親が言うには、最初は鉄道にはまったく興味を示さなかったんだけれども、3歳くらいのとき、江ノ電に乗って、そのときから鉄道に目覚めたらしくて。
寺田 だけど、裏切られちゃったんだよな(笑)。
石野 はい(笑)。受けたんですけど、残念ながら、ということになりまして......。志望的には、江ノ電、箱根登山鉄道、湘南モノレールというのがあり、高校の先生から、箱根は地元(出身)じゃないと採らないよという話を聞いていたので、じゃあ湘南モノレールに応募してみようと。そうしたら、トントントンとうまくいきまして。
──江ノ電に登山鉄道、モノレール......もしかして石野さん、ちょっと普通と違う感じの電車が好き?
石野 そういえば、そうですね(笑)。あとは、ローカル、と括っていいのかどうかわかりませんが、都会から外れた鉄路っていうのが、自分的にはよかったのかなと。
──都会から外れた鉄路!
寺田 変わってるよなぁ。鉄道マニアだったら、やっぱJRでしょ?
石野 そうですね。あと、新幹線とか。別の免許が要るんですけど。
寺田 うん、うん。動かしてみたいよねぇ、新幹線。
──ズバリ、今も江ノ電に未練はありますか?
石野 いやぁ〜、今はもう......でも、あの、たとえば、しがらみがなければ運転してみたいなっていう気持ちは、正直、ありますね。
──しがらみ(笑)。さて、寺田さんです。どうして運転士に?
寺田 やっぱりその話、訊くんですね(笑)。
──ええ。聞かなければ帰れません。
寺田 そうですか。はい、えーと、僕は特別、電車が好きっていうことはなかったんですけど、中学生くらいから車は好きで、高校生になって将来どうするかって話になったとき、車関係にしようと思ったんです。でも、高校の先生に、「整備士は大変だぞ」と言われて、じゃあ駅員さんとかだったら楽かなぁ、と思いまして......すみませんね、いい話じゃなくて(笑)。
──いえいえ(笑)。
寺田 で、住んでいた近くを走っていた相模鉄道を何となく受けたんですけど、見事に振られまして。そういえば子どもの頃、開通したモノレールに乗ったことがあったなぁと思い出したんです。
──運転士それぞれに歴史あり、ですね。石野さんから見て、寺田さんはどんな先輩ですか?
石野 (即答)優しい先輩です。
寺田 おぉー。
──そうとしか言えませんよね(笑)。
石野 いえいえ、本当に。
寺田 僕は彼の師匠ではないんですけど、ほら彼、ちょっとおとなしめに映るじゃないですか(笑)。だから「おはよう!」って声、かけたりしてね。
石野 いろんなことを、たくさん教えていただいて。
寺田 車掌と運転士で組んで、よく乗ったしね。泊まりもやったし。
──泊まり勤務も、あるんですね。
石野 あります。終電近くの時間帯はそうですし、早朝は5時台から動いているので、それを動かす人たちが。
寺田 今でも週1、2くらいで、ありますね。
──へぇー。逆に、石野さんは、どんな後輩ですか。
寺田 うーん、「久々に空気読める子が入ってきたな」って感じ?
──空気が読めない運転士さんって? 運転の間が悪いとか?
寺田 いや、仕事の、というか、職場の中での全体的な空気が......。あ、でも、運転に関しても、間のよし悪しって影響するかもしれないですね。あんまり慎重すぎると、遅延が発生しますから。
──遅れたときは、他の車両を動かす人に謝るんですか?
石野 そうですね。対向の車掌さんに「ごめんなさい、今、◯◯駅で精算をやったので遅れました」とか。
寺田 僕は......「俺じゃないからね」って合図する(笑)。
石野 ハハハ!
──乗務員のみなさんの結束力、高そうですね。
石野 そう思います。下は22、3から、上は......。
寺田 いちばん上が僕の3つ上だから、50代半ば。親子みたいなもんですね。ふだんは車掌、運転士ひとりずつのチームで乗ってますけど、休みを取るときとか、全体でカバーし合うことも多い。だからやっぱり、空気を読めるって大事なんです。
→Vol.4に続く