さて、連載2回目ですから、きちんとモノレールに乗ります。
もともとここを教えてくださったのはジェットコースター愛好家としても名高い宮田珠己さん(このサイトでも連載をお持ちです)。そんな宮田さんが勧めるだけあって、懸垂式のしょもたんは確かにジェットコースター的な怖さがある。発車するときにいちばん前の窓を見ていると、下に何もないから飛び降り台から飛び込む気分です。地面まで妙に近いのもいい。信号とか、めっちゃ近い。浅草花やしきのジェットコースター的な怖さ。
しょもたんはけっこうなスピードを出して鎌倉界隈の丘陵地を上がったり下がったり。まずは終点まで行ってみようと、湘南江の島駅に来てみました。
大船駅のホームで水色だった部分は、湘南江の島駅ではベタッとしたリノリウムのような素材の緑の床になっていて、これはこれでプールっぽい。レールと床の区別がないから、駅員さんがふつうにその緑の床を歩いて事務室に入っていきます。
改札を出ると、唐突に「湘南江の島名物・生しらす丼」と書いてある顔出し看板があります。
いや、しらす丼にはもともと顔なんかない。この看板は湘南モノレールが公式に作った物みたいだけど、ふつうのしらす丼の写真に顔出し部分を作るなんて暴挙だ。顔を出す必要性がまったくない。2個も穴が開いてるけど、穴の部分が任意すぎる。それなのに、ああ、顔を出して写真を撮っている人がいる。しかたない、これはジェットコースターで、ここはきっと遊園地なんだ。みんなしらす丼から顔を出すことに疑問を感じないくらい浮かれてしまうんだ!
さて、湘南江の島駅は、5階建ての5階がホームなのにエスカレーターがありません。長々と降りていって地面に着きましたが、この地域からモノレールに乗るときは、まるで古い団地に帰るみたいに5階分の階段をのぼらなきゃいけないのだな。さすがにバリアフリー化計画が進められているようですが......でも、こういう建物の不器用な感じ、私は大好きなんです。建物の裏に回ると、山肌からにゅっとレールが出てきて、鉄骨でむりやり嵩上げされたようなホーム部分につっこんでる。不器用でぶさいくでやや異様な感じ、たまらない。まさにプールの飛び込み台を大がかりにしたような建物。
駅前はというと、この日は平日とはいえ、観光地・江ノ島が近いわりには特に賑わっていません。江ノ島近辺には、小田急の片瀬江ノ島駅、江ノ電の江ノ島駅、この湘南江の島駅と3つも駅があるのですが、湘南江の島駅がいちばん江ノ島から遠い内陸側にあるので、この静かさも当然かもしれない。でも、この3つの中でどれが好きって、ほじくり好きの私は当然観光地からいちばん遠い湘南江の島が好きに決まってます。
駅からさらに内陸側に歩いてみる。観光要素の少ない古い商店街で、「片瀬中央商交会」というらしい。こういう商店街も私の大好物だなあ、と思ってしばらく行くと、急に道に大きな蓋がかぶせてあるところがあります。
八百屋さんの「はとりや」の前に、アーケード未満の「道蓋」があるのです。はとりやさんで買いものするときだけは絶対に雨に濡れずに済みそうです。
当たり前のように言ってますけど、「道蓋」は今思いついた概念です。
この手の「道蓋」は古めの商店街でたまに見られますが、はとりやさんの道蓋は道幅いっぱいいっぱい、2階の屋根の高さに張られたかなり立派な「道蓋」だったもんで、思わず新たな言葉を作ってしまいました。
観光地で非観光なものを見るという満足体験を経て、私はまたしょもたんに乗ってだいぶ前の駅に戻る。観光地じゃない駅こそ本質だ。
ほじくり湘南モノレール(2)
2018.01.31
能町みね子
北海道出身、茨城県育ち。
著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』『雑誌の人格2冊目』(いずれも文化出版局)、
『お家賃ですけど』(文春文庫)、『うっかり鉄道』(メディアファクトリー)、『能スポ』『能サポ』(いずれも講談社文庫)、
『逃北』(文春文庫)、『ほじくりストリートビュー』(交通新聞社)など。
著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』『雑誌の人格2冊目』(いずれも文化出版局)、
『お家賃ですけど』(文春文庫)、『うっかり鉄道』(メディアファクトリー)、『能スポ』『能サポ』(いずれも講談社文庫)、
『逃北』(文春文庫)、『ほじくりストリートビュー』(交通新聞社)など。
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