なんで乗ったことがなかったのか、湘南モノレール。江ノ島に行くには江ノ電、という固定観念があった。確かに江ノ電はいい。湘南モノレールのサイトでいきなり江ノ電のこと書いていて背徳感がハンパないけど、私は江ノ電が好きだ。たぶん、江ノ電が好きすぎて湘南モノレールに乗ったことがなかった。しょもたん(湘南モノレールのゆるキャラ)、ごめんなさい。私、こんなに湘南モノレールがいいものだと知らなかったんです。
まず江ノ電はのんびり感、レトロ感が売りである。それに対して「モノレール」とくればちょっと未来の感じがします。
しかしよく考えてみると、モノレールのイメージって「昔の未来」です。カタカナでいうとレトロフューチャー。それ、めっちゃ私が好きなやつじゃん。
実際、大船駅で乗り込むところからしてレトロ+フューチャーだった。いきなり「昔・懐かしの硬券入場券(硬いきっぷ)」と貼り紙があって、「懐かし」を推している。窓口には「クレジットカード類はご利用できません。現金のみのお取り扱いになります」って書いてある。案外アナログ。あれ、これだと「レトロ」だけで「フューチャー」がないか。
いや、湘南モノレールは懸垂式、つまり吊り下げてある珍しいタイプのモノレールだから、これはフューチャーでしょう。正直、こういうものの存在自体知らなかったですもん。下にレールがいらない。ということはつまり、プラットホームでふつう車体の下に設置する線路に当たる部分が必要ない。
じゃあそこは実際どうなっているかというと、大船駅では、小学校のプールの底を思わせるような、水色のプラスチック(?)の長い板が並べてあるような状態になっている。なんだろう、とにかくその底の部分が私はすごく好きなのでした。雨風の吹き込みでちょっと汚れているのもたまらない。小学校時代の夏の思い出がよみがえるのかな(あ、やっぱりレトロか)。
電車の線路を見るときには「ここには降りちゃダメ」という感覚が本能のようにすりこまれていて、絶対に落ちまいという意識が働くけど、ここでは水色の「プール」にうっかりホイッと降りてしまいそう。そこでボケッとしてたら懸垂式しょもたんが高速でやってくるから危ないんだけど、懸垂式モノレールは根本的に感覚が覆されてしまう(やっぱりフューチャーだ)。
それで私は、あ、一応宣伝を兼ねて自己紹介したいのですが、いろんなところで文章やイラストを寄稿して食っている者です。先日「ほじくりストリートビュー」という本を出しました。地図を見て、道の形やら区画やら境目やら、ごくわずかな違和感のある場所を発見しては実際にそこに散歩しに行ってほじくる、つまり見に行って様子を確認して、たまに歴史にもちょっと踏み込む、といった内容の本です。
こちらのサイトでも、湘南モノレール界隈のごくわずかな気になる部分をほじくらせていただければと思っています......が、初回については自分でも想定外だったんですが、車体の下の水色の部分だけをほじくっていたら終わってしまいました。この調子で沿線の街にきちんと繰り出せるんだろうか。
ほじくり湘南モノレール(1)
2018.01.17
能町みね子
北海道出身、茨城県育ち。
著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』『雑誌の人格2冊目』(いずれも文化出版局)、
『お家賃ですけど』(文春文庫)、『うっかり鉄道』(メディアファクトリー)、『能スポ』『能サポ』(いずれも講談社文庫)、
『逃北』(文春文庫)、『ほじくりストリートビュー』(交通新聞社)など。
著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』『雑誌の人格2冊目』(いずれも文化出版局)、
『お家賃ですけど』(文春文庫)、『うっかり鉄道』(メディアファクトリー)、『能スポ』『能サポ』(いずれも講談社文庫)、
『逃北』(文春文庫)、『ほじくりストリートビュー』(交通新聞社)など。
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