「これはいい直進型だ」
「ドンついた先が線路だから鉄道ドンツキ。しかも廃線跡だからレアですね」
「その先には湘南モノレールの路線が。モノレールが来るまで待ちますか」
「線路の向こう側にも続いているんで蜃気楼型とも言えますね」
「鉄塔も見えるので鉄塔マニアには受けるかも」
大雨の降りしきる湘南モノレール沿線の、一見なんでもない道端におじさんたちが寄り合いながら、「直進型」だの「〇〇がレアだ」だの「蜃気楼型」だの、何やらわけのわからない専門用語が口々に飛び交っている。これが私どもドンツキ協会の主催する「ドンツキクエスト」の、まあごくありふれたいち風景なのである。
みなさんも日々変わらぬ生活を送るなかで、通勤や通学、また買い物などでいつもの場所をめざすとき、ふといつもと違う道を通ってみようとか、またこっち行ったら近いんじゃないか、と思われたことはないだろうか。しかし、そんな余計な好奇心のせいで、慣れない道にはいってみたものの、行き着いた先が行き止まりで、泣く泣く元来た道へと引き返した、といった経験をされたことのある方は決して少なくはないはず。
つまりまちの中でできれば出会いたくない物件、迷惑千万、言葉にするのもイヤ、同じ部屋で空気も吸いたくないと言われるほど否定的にとらえられがちな、まちに点在する行き止まりの道、すなわちドンツキ。それをまちの個性としてむしろ肯定的にとらえ、観察・研究また表現活動などによってその地位向上を目指すことを目的に、意気投合した仲間たちによって始められたのが私たち『ドンツキ協会』なのである。
そして、「ドンツキクエスト」とは、そんなまちに点在するドンツキを、住民のご迷惑にならないように「おじゃまします」の心構えでめぐり、まちの個性を見いだす、探求のツアーなのである。
街なかに生きていれば誰でも出会うことのあるドンツキ、それをマトモに研究対象にしてしまおうという発想は、誰にでも思いつきそうで思いつかなかった、いわばコロンブスの卵だったのだろう。2011年の設立から紆余曲折を経てゆくうち、協会の趣旨に共感を覚える人たちも増えてきた。
協会の活動を通じて「私の実家もドンツキだったんですよ」という方に出会うこともしばしばである。あたかも、迫害を恐れて身元をひた隠しながら生き延びてきた人びとが、長い年月を経て宣教師に巡り会えたことを喜び、信仰を告白するかのようである。