谷底にある湘南深沢駅の進行方向には、緑に覆われた次なる山が立ちはだかっていた。駅を出た車体が上昇を始める。モノレールは幅の狭い尾根筋を辿りながら標高を上げてゆく。懸垂式なので足元が広範囲に見渡せ、自分のいる位置関係や周辺の凸凹地形が把握しやすい。モノレールの走る痩せ尾根は、丘陵地から伸びる「龍の尻尾」のようにも思えた。
湘南深沢駅から目白山下駅までの凸凹地形図(カシミール3Dを使って作成)。湘南深沢駅を出たモノレールが痩せ尾根の稜線を辿り鎌倉山へ至る様子が分かる
坂に挑む加速時にもモーター音が気にならないのは、モーターは上部車輪近くに収納されているからだろう。不快な振動もなくモノレールは一直線に、そして意を決したように静かに立ちはだかる山へと向かってゆく。
「今度の山は手強そうだ」
そう言うと、隣にいた友人がゴクリと唾をのみ込んだ。地図で確認すると前方に見える山は鎌倉山のようだ。
起伏ある地形に合わせ、軽快に降下と上昇を繰り返すモノレール
「あれは鎌倉山だ」
「結婚式とかで出てくるヤツだいね」
友人は短絡的にローストビーフが頭に浮かんだのだろう。車体は鎌倉山に穿たれたトンネルへと吸い込まれてゆく。運転台から前方を見ていると、まさに車体が浮いているかの如しで、宇宙空間を浮遊する小惑星に開いた穴を軽快にくぐり抜けるミレニアム・ファルコン号のようで、コックピット(運転席)にエールを送りたくなる。
長いトンネルを抜けると、そこは谷間だった。モノレールは大きく蛇行しながら谷底へ向かって降下を始めた。車窓からは遊水池や蛇行する川が確認できた。今いる谷の名が気になり、地図で確認すると交差点の名に「赤羽」の文字があった。赤土(関東ローム層)に覆われた、泥はねの多い土地柄だったのかもしれない。モノレールは川の近くに造られた西鎌倉駅に着いた。もう一度地図で確認すると、駅周辺は二つの川の合流地点にも見える。
西鎌倉駅を発ったモノレールは再び上昇に転じ、蛇行しながら次なる山の頂を目指しているようだ。両側に崖が迫り、まるで切通しのような地形だ。人工的な谷間に見えるが、モノレールが築かれたルートには元々自然の谷間が存在したと推測する。なぜなら足元の木々が繁る隙間に小さな川の流れが見て取れたからだ。「下を向いて歩こう」が地形マニアの合言葉であるが、懸垂式モノレールは見事にその期待に応えてくれる乗り物だ。はるばる乗りに来る価値は十二分にあると思う。
車体は地形に寄り添うようにグングンと高度を上げ、再びトンネルかと想像したが、山頂手前で、町に寄り添うような片瀬山駅に停車した。これまで町を見下ろしてきたのに、車窓と同じレベルに日常風景があるのが何とも不思議だった。道路を歩く女子高生や駐車場で煙草をふかすサラリーマンと目が合わないように気をつける。
片瀬山付近では、モノレールは周辺の町と同じレベルを走る