江の島への近道 湘南モノレール株式会社

■ 謎の(伝)帝釈天像

 さて最後にとりあげる龍口寺の魅力、それは仏像である。
 昨今は仏像ブームが続いていて、鎌倉にも高徳院の阿弥陀如来坐像(鎌倉大仏)や長谷寺の十一面観音だけでなく、国の重要文化財に指定されている浄光明寺の阿弥陀三尊、来迎寺の如意輪観音など名の知られた仏像がある。
 龍口寺はどうか。
 大本堂には、正面に日蓮聖人坐像のほか、脇陣には、六老僧、鬼子母神、清正公坐像などが安置されている。

miyata_ryukouji1_17.jpg

 まず素人目に惹かれたのは、それらの主要な像ではなく、大前机を支える邪鬼だ。
 まるまると太った2体の邪鬼は、よそではあまり見られない巨躯とかわいさで印象に残る。

miyata_ryukouji1_18.jpg
miyata_ryukouji1_19.jpg

 今回龍口寺の下邨(しもむら)執事に撮影の許可をいただいたのだが、執事も、この邪鬼が参拝者に人気だとおっしゃっていた。いきいきとした表情を見ていると親近感が湧いてくる。
 邪鬼は脇侍の持国天、毘沙門天の足元にもいて、こちらの2体も赤と緑の彩色が鮮やかでインパクトがあった。

miyata_ryukouji1_20.jpg
miyata_ryukouji1_21.jpg

 だが、大本堂でもっと私が気になった仏像は、他にある。
 実はその仏像こそが、私が今回龍口寺の記事を書こうと思った最大の理由なのだ。

 それは左の脇陣、鬼子母神や大黒天、清正公坐像などが並んだ一番左の端にひっそりと立っている。
 最初に見たとき、これが一体何の仏なのかわからず、思わず堂内にいたお坊さんに尋ねたところ、帝釈天ですと教えられた。
 帝釈天?
 帝釈天といえば、有名な東寺(京都)の象に乗ったイケメンな仏像を思い出すが、それとはずいぶん様子が違う。

miyata_ryukouji1_22.jpg

 立派な髭と菱形に輝く目、どこかアイヌ文様を思わせる兜もしくは帽子を被り、右手には剣、左手にはぐっと力を込めて、大きく脚を開きどっしりと構えている。
 これが本当に帝釈天なのか。

 あらためて下邨執事に確認してみたが、帝釈天と伝わっていること以外、何もわからないとのこと。いったいいつどのようにして龍口寺にやってきたのか、奉納されたものなのか、寺で彫られたものなのか、その出自も時期さえもわからないそうだ。執事がその場で像をひっくり返して銘などを確認したが、どこにも何も書かれていなかった。今となっては、これが帝釈天とされる根拠さえも伝わっていないのだ。

 背後に立てかけられた板曼荼羅には、四天王の名が書かれ、四天王を統べるものとして帝釈天と判断されたのでは? と質問してみたが、この板と仏像は別々のもので関連はないという。

 ちなみに藤沢市の文化財総合調査報告書(平成元年)には、「木造帝釈天立像」との記載がある。報告書には短く、
「像高34.9cm 台座高11.2cm 大堂安置。民俗的な要素の濃い異形相である。民間信仰における祈祷の本尊か。一木造、彫眼、黒漆塗。近代の作。」
 とだけ記されていて、つまりは比較的新しい近代のものという以外、何もわからない。帝釈天と判断された理由も謎のままだ(報告書に記載があるだけで、文化財には指定されていない)。

miyata_ryukouji1_23.jpg

 あらためて像を見ると、髪の形が左右で違っており、左頬からは髭らしきものがヒレのように突き出しているが、右にはそれがなく、かわりにたて髪のようなものが背中まで届いている。あるいはこれは服の一部だろうか。

miyata_ryukouji1_24.jpg

 そしてよくよく見れば剣だと思ったものは棒で、すっかり剣だと思い込んでいたから、ますますわからなくなった。
 この棒、もともとは先端に何か付いていたように見える。
 いったい何が付いていたのか。
 わからないことばかりだ。

 わからないことばかりなんだけれども、私の感想をひとことで言わせてもらうなら、こうだ。

 かっこいいい!!!!

 私は昔から仏像が好きで、京都や奈良でもあちこち見に行ったが、こんなのは初めて見た気がする。
 このかっこいい仏像はなぜ世に知られていないのだろう。

 その異形の姿は、他では見られないユニークなものであり、これを見るためだけでも龍口寺に訪れる価値ありと私は考える。
 以上が、私が見た龍口寺の4つの魅力である。まだまだあると思うが、シーズン問わず味わうことができる魅力を紹介してみた。

 全国の仏像ファンはぜひ龍口寺に不思議な仏像を見に来てほしい。そしてその正体を知っている人がいたら教えてほしい。

LINE
Twitter
facebook
google+
hatenablog
宮田珠己(龍口寺編)ポートレート
宮田珠己(龍口寺編)
エッセイスト。
ジェットコースター、変なカタチの海の生きもの、巨大仏、ベトナムの盆栽、迷路のような旅館、石などに興味を持ち、好き勝手に執筆。旅が大好きだが、飛行機が苦手で苦悩している。
主な著書は『ジェットコースターにもほどがある』『晴れた日は巨大仏を見に』『ふしぎ盆栽ホンノンボ』『四次元温泉日記』『いい感じの石ころを拾いに』『だいたい四国八十八カ所』『ときどき意味もなくずんずん歩く』『私なりに絶景』『ニッポン47都道府県正直観光案内』など。
著者のご紹介
mr.ブラーン
佐藤淳一ポートレート
乗らずにいられない、懸垂式モノレールの魅力
佐藤淳一
ドボク+動物のかけもち写真家
宮田珠己ポートレート
湘南モノレールはどのぐらいジェットコースターなのか
宮田珠己
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
宮田珠己(続編)ポートレート
5つの面白レールを1日で。ゆかいなのりもの大冒険!
宮田珠己(続編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
村田あやこポートレート
路上に潜む異世界を求めて ー湘南モノレール沿線 路上園芸探索ー
村田あやこ
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(続編)ポートレート
湘南モノレールから歩いていける森巡り
村田あやこ(続編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(変形菌編)ポートレート
ルーペの向こうのちいさな世界
村田あやこ(変形菌編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(大船系植物編)ポートレート
「大船系」植物と玉縄桜~知っていますか?大船生まれの植物たち~
村田あやこ(大船系植物編)
太田和彦ポートレート
大船で飲む
太田和彦
作家。旅と酒をこよなく愛する
八馬智ポートレート
土木構造物としての湘南モノレール鑑賞術
八馬智
ドボクの風景を偏愛する都市鑑賞者
西村まさゆきポートレート
湘南モノレールの昔と今を比べてみる
西村まさゆき
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(続編)ポートレート
開業当時の古写真の場所はいったいどこか探す旅
西村まさゆき(続編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(車両基地編)ポートレート
大人のモノレール車両基地見学記
西村まさゆき(車両基地編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
大船ヨイマチ新聞ポートレート
よい街 オーフナ
大船ヨイマチ新聞
大船のフリーペーパー。昼は「良い街」夜は「酔い街」。
皆川典久ポートレート
地形マニアと鉄ちゃんの凸凹乗車体験記〜湘南モノレールに乗って〜
皆川典久
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
皆川典久(続編)ポートレート
湘南モノレールに乗らずに
皆川典久(続編)
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
能町みね子ポートレート
ほじくり湘南モノレール
能町みね子
肩書きに迷いつづけ、自称「自称漫画家」。散歩好き。
ドンツキ協会ポートレート
ドンツキクエスト in 湘南モノレール
ドンツキ協会
ドンツキ協会は東京の路地の町、向島を拠点に、袋小路『ドンツキ』の研究に取り組む団体。
大谷道子ポートレート
湘南モノレール運転士インタビュー 「運転する人どんな人」
大谷道子
ライター・編集者。
井上マサキポートレート
湘南モノレールの「まっすぐ路線図」を鑑賞する
井上マサキ
路線図を鑑賞するライター
井上マサキ(ぶら喜利)ポートレート
ぶら喜利
井上マサキ(ぶら喜利)
路線図を鑑賞するライター
鈴木章夫ポートレート
湘南モノレールバー人図鑑
鈴木章夫
誰かをちょっとだけびっくりさせるのが幸せ。かまくら駅前蔵書室(カマゾウ)室長
二藤部知哉ポートレート
ソラdeブラーンdeラーン
二藤部知哉
沿線在住のんびりブラーンランナー
いのうえのぞみポートレート
湘南フォトレール カメラを持って湘南モノレールに乗ろう!
いのうえのぞみ
モデル・タレントで世界一周を目指すカメラマン
大村祐里子ポートレート
フィルムdeブラーン
大村祐里子
フィルムカメラをこよなく愛する写真家
川口葉子ポートレート
モノレールdeカフェ散歩
川口葉子
都市散歩と喫茶時間を愛するライター、喫茶写真家。
松澤茂信ポートレート
湘南別視点ガイド
松澤茂信
東京別視点ガイド編集長。珍スポットとマニアのマニア。
川内有緒ポートレート
湘南トライアングルをめぐる旅
川内有緒
ノンフィクション作家
田中栄治ポートレート
MonoTube
田中栄治
地上と空のスピード感を追い求めている素人カメラマン
三土たつおポートレート
本物の車内アナウンスが楽しすぎた。
三土たつお
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
三土たつお(続編)ポートレート
湘南モノレール風景図鑑
三土たつお(続編)
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
杉浦貴美子ポートレート
食べる!湘南モノレール -湘南「地形菓子」制作奮闘記-
杉浦貴美子
地図・地形好きライター
今泉慎一ポートレート
〝もののふ隊〟駅前砦にあらわる
今泉慎一
旅・歴史・サブカル好き編集者兼ライター
ワクサカソウヘイポートレート
車窓の冒険
ワクサカソウヘイ
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
ワクサカソウヘイ(夜編)ポートレート
夜になると 湘南モノレールは
ワクサカソウヘイ(夜編)
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
半田カメラポートレート
大船観音の劇的楽しみ方
半田カメラ
大仏写真家
遠藤真人ポートレート
ジェットにGO!GO!!
遠藤真人
モノレールに敬礼!鉄道写真バンザイ!
石川祐基ポートレート
湘南モノレール「もじ鉄」旅
石川祐基
グラフィックデザイナー。鉄道と文字が好きな、もじ鉄。
大竹聡ポートレート
腰越で飲む
大竹聡
酒と酒場をこよなく愛するフリーライター
荻窪圭ポートレート
道標をきっかけに江の島まで古道を辿る
荻窪圭
老舗のデジタル系ライター。古道・古地図愛好家。
松本泰生ポートレート
湘南モノレールが見える階段を探して
松本泰生
階段研究家
大山顕ポートレート
湘南モノレールに乗って体長2kmのヤギを描く
大山顕
ドボクフォトグラファー
田代博ポートレート
湘南モノレールと富士山
田代博
富士山遠望鑑定士。ダイヤモンド富士ハンター。
北尾トロポートレート
町中華タウン大船をゆく
北尾トロ
町中華探検隊隊長
喜清みずほポートレート
失われた 記憶をたどる まぼろしの遊園地「江の島龍口園(えのしまりゅうこうえん)」
喜清みずほ
鎌倉観光ボランティアガイド
宮田珠己(龍口寺編)ポートレート
龍口寺の龍と、謎の仏像
宮田珠己(龍口寺編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
加門七海ポートレート
江の島怪談闇歩き
加門七海
作家
中野純ポートレート
江の島怪談闇歩き
中野純
負の走光性がある、闇歩きガイド
宮田珠己(空の駅編)ポートレート
湘南江の島駅は、日本一高い駅だった!?〜日本一、地上高が高い駅はどこか?
宮田珠己(空の駅編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
モノ喜利(井上マサキ)ポートレート
モノ喜利
モノ喜利(井上マサキ)
めざせ!最優秀ブラーン賞
ヴッパータール空中鉄道座談会ポートレート
ヴッパータール空中鉄道について思いっきり語る
ヴッパータール空中鉄道座談会
ヴッパータール空中鉄道に乗車した人たち
モノ散歩ポートレート
モノ散歩
モノ散歩
沿線の魅力が集結!
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)ポートレート
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)