江の島への近道 湘南モノレール株式会社

3章 黄金に輝く仏舎利塔

さて、『湘南江の島駅』である。

ここでは車窓ではなく、駅の窓から見える景色に注目したい。これである。

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タワー型になっている『湘南江の島駅』。その5階と4階の狭間の踊り場部分から目の前の山の頂上を見上げると、金色に輝くなにかが見える。聞くところによると、それはお寺の所有する仏舎利塔であるらしい。

湘南モノレールの車窓からは、この山は確認できても、仏舎利塔の姿は認めることができない。山の傾斜が、ちょうど仏舎利塔を隠してしまっているのである。奥に潜んでいる感じが、「車窓の隠れステージのボス」といった感じでとてもよい。攻略するしかないではないか。

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「隠れステージ」の入り口は、この龍口寺正門である。『湘南江の島駅』から歩いてすぐ近くのところにある。なかなかに立派なお寺で、門を抜けた先にある本堂も風格が漂う。

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面白いな、と思ったのは、門から本堂に抜けていく道中で仏舎利塔の姿が一切見えない点である。あと、仏舎利塔があることを強くプッシュするような文言がどこにも掲げられていない。仏舎利塔の「隠れステージのボス」感が高まる。

なにも知らずにこのお寺へ参拝に来たら、本堂前で手を合わせて、絵馬に願い事を書いて、で、上に仏舎利塔があるなんてつゆほども思わないままに帰ってしまうかもしれない。

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絵馬奉納所を過ぎ、仏舎利塔に続く道を探す。するとひっそりと、仏舎利塔の方向を指さす看板を見つける。どうやら、本堂の裏山を上へと目指すらしい。

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そこには見ているだけで眩暈を起こしそうになる、傾斜のきつい階段が現れた。

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息を切らしながら、階段を上っていく。木々が頭上に屋根を作り、カラスたちがぎゃあぎゃあと騒いでいる。まるで密林といった趣である。仏舎利塔は依然として姿を現さない。やっと階段を上りきるが、その左手にはまだまだ上へと続く階段が用意されている。

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この辺りで、少し胸が高鳴っている自分に気づく。というのも仏舎利塔を目指すこの散歩、けっこうな冒険感があるのだ。「お寺の裏山」というシチュエーションがなかなかに少年探偵団な風情だし、密林の奥に秘密めいた建築物が潜んでいるという設定も楽しい。ゴールまでの道のりがちょっと迷路風味になっている点も高く評価したいところだ。

そんなことを考えながら、ひたすらに仏舎利塔を目指して歩く。途中、小型モノレールの錆びた廃線跡が現れたりして、さらにインディ・ジョーンズ気分を煽ってくる。

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そしてその廃線跡を抜けるとすぐに、やっと目当ての仏舎利塔が青空に浮かぶようにして現れた。

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ここまでその姿がまったく見えなかったのは、配置計算によるものなのか、それともたまたまなのか。どちらにしても、「この先に本当にあるのか......?」という若干の不安を抱きながらの冒険の果てに、いきなりドン!と追い求めていたものの姿が現れるというのは、なかなかにドラマチックな体験である。ほどよい苦労の末に見ることの叶った仏舎利塔は、やけに荘厳なものとして私の目にうつった。黄金と白亜に輝くこの塔の中には、インドから贈られた仏舎利(ブッダの遺骨)が納められているという。

こちらの龍口寺は日蓮宗。その開祖である日蓮は、この地で処刑されそうになったことがあるらしい。しかしなんとか難を逃れ、日蓮は九死に一生を得る。その事件を記念するために、この仏舎利塔は建立されたそうだ。「記念」と「処刑」に並ばれると、おめでたいのか物騒なのか、よくわからなくなってくる。

ところで、この仏舎利塔の前に、ちょっと気になる物件があった。絵馬奉納所である。

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少なすぎないか、絵馬。二枚って。本堂前とは、明らかに差がある。

ここが「隠れステージ」であることを、この絵馬の少なさが端的に表現しているように思えた。(それでも私の他に、かつてここへと辿りついた者が二人はいたのだな......)なんてコメントを頭によぎらせながらその少量の絵馬を眺めると、気分はすっかり大義を果たした冒険者である。実際はただひたすらに階段を上っただけなのだが。

ちなみにこの龍口寺の裏山は、仏舎利塔に続く道の他にも、いくつかのルートが走っている。密林の中を迷子になった気分で進むと、その先に堂々とした木造の五重塔が現れたりする。木漏れ日の中で突然と姿を見せてくる五重塔は、仏舎利塔とはまた別の秘密めいた風情を放っている。

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こうして「隠れステージ」を攻略したのち、湘南モノレールに乗車してみる。すると車窓の先の景色が、少しだけ以前とはまた違って見えた。あっちの山もこっちの山も、一見なんの変哲ない顔をして佇んでいるけど、裏では未知なる秘密を隠しているんじゃないのか。そんなふうに想像しながら眺める湘南モノレールの車窓は、ずいぶんと楽しい。

龍口寺の裏山散歩は、車窓の景色にアドベンチャーな深みを与えてくれたのであった。

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