江の島への近道 湘南モノレール株式会社

湘南トライアングルをめぐる旅(4)

16時00分 水平線の旅


 さて、慣れないアウトドア活動の連続で疲労困憊していた私たちは、保冷バッグに魚を詰め、鎌倉方面の江ノ電に乗りこんだ。そろそろひと休みをしたいところである。

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 江ノ電は古い木造家屋の合間をすり抜けたかと思うと、車窓いっぱいに水平線が広がった。
「ほら、海が見えるよ」
 ナナオに声をかけようとしたけれど、すでに娘はぐっすりと眠りこけていた。
 車窓に映る水平線というのは、どうしてこうも魅力的なのだろう。ふいに見知らぬ映画のなかにトリップしてしまったような気にさせられる。



 向かったのは、長谷駅から3分ほどの「てぬぐいカフェ 一花屋」。築80年の古民家を使ったカフェである。

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 ガラガラという引き戸の玄関を入ると、入り口にはずらりと手ぬぐいが並び、庭から夕方の光が柔らかくさしこんでいる。時間が遅めなせいか、店内は驚くほど静かだった。
 娘を座布団の上に寝かせると、もはやピクリともしない。
 I君は釣りの余韻に浸りきっていて、「ねえ、俺たち、あの釣り人のなかで一番釣れてたよね?」と自画自賛を始めた。
「うん、そうだね」と答えたものの、冷静に分析してみると、I君の実力というよりも大判振る舞いの撒き餌の効果にちがいない。なにしろ彼は、1日分の撒き餌をたった1時間で使い切ってしまったのだ。さすが釣り好きである。
 冷たいレモネードを飲みながら、しばし静かな時間に身を委ねた。娘は相変わらず深く眠り続けている。どんな夢を見ているのだろうか。

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 私は、ただぼんやりと娘の寝顔を眺めていた。
 こどもの寝顔は、とても好きなもののひとつだ。ただ見ているだけでゆるゆると心をほぐしてくれる。
 娘がまだ生まれたばかりのころは、あまりにも寝息が小さくて、「息をしていないかも」と心配になり、しょっちゅう呼吸を確認したものだった。さすがにいまはもう確認はしないけれど、寝顔を見ているとまだ赤ちゃんの頃のままだった。


17時30分 出発地点の大船に戻る


 日が暮れてきたので、また江ノ電に乗りこんだ。ちょうど娘も目が覚めたので、鎌倉でJRに乗り換え、大船で夕飯を食べることにした。
 今朝「鎌倉・江ノ島パス」を買った券売所の前を通りかかる。思えばなかなか長い1日で、切符を買ったことがもうずいぶん前のことのようだ。
 駅前では、たくさんの人々が金曜日の夜を楽しもうと鼻歌混じりに歩いていた。

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「ねえ、何が食べたい?」とふたりに聞くと、I君が「寿司! 魚が食べたい」と答えたので、海鮮居酒屋「ひととき」に入った。お寿司や揚げだし豆腐、天ぷらなどを頼んで、3人で乾杯する。
「かんぱーい!」

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 もうここから先は、「鎌倉・江ノ島パス」は使えない。
 たった20キロほどの三角形の旅。その間に、私たち三人は空を飛び、森の道を歩き、未知の島に上陸し、魚を釣り、車窓から水平線を眺めた。娘にとっては初めてのモノレールに、初めての魚釣り。
 たくさんの「初めて」を繰り返しながら、今日もキミはまた一歩オトナに近づいたんだねえ。
 そう思うと、ほんの一瞬だけ胸がきゅんとする。
 そのとき、「いやいや、まだ1日は終わってないよ!」とI君が思い出したように言う。「家に帰ったら、すぐに魚を捌かないと!」
 ああ、そうだったね。
 その瞬間、急にいつもの日常に戻ったような気がした。


今回の旅で寄った場所
1 西鎌倉ニヨンマル
2 鎌倉広町緑地
3 井上つりえさ店
4 手ぬぐいカフェ一花屋
5 居酒屋ひととき

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川内有緒
趣味は旅とアートスポット巡りとD.I.Y.。いま小さな山間の集落に自作の小屋をつくっています。著作に『パリでメシを食う。』(幻冬舎)ほか。バングラデシュの吟遊詩人たちを追った「バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌」(幻冬舎)で新田次郎文学賞を受賞。東京の恵比寿でGallery and Shop山小屋を運営中。一児の母。
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