江の島への近道 湘南モノレール株式会社

憧れの湘南の海へ(片瀬山駅~湘南江の島駅)

片瀬山駅を発ったモノレールは車道からの高度を確保しつつ蛇行を繰り返し、坂を下ってスリバチ状の谷間につくられた高架駅・目白山下駅に停車した。丘陵を抜けた車内が明るくなり、視界が開けた。スリバチの空は広いのだ。

画像14.JPG車窓からも遠くに湘南の海を見ることができる

「おー!海だ海だ!江の島が見え~てきた~♪」

グンマーの友人はコーフン気味だ。残念ながら江の島はまだ見えていない。運転台の後ろに一緒にいた小学生は、いつの間にか父と着席していた。

「湘南はいいんね。江の島といえばやっぱサザンだいね」

気持ちは分かるがサザンオールスターズは茅ヶ崎である。大胡と笠懸(注:地元群馬県のローカルな地名)を間違えると怒るくせに。目白山下駅前方には新手の山が迫っていた。これまで蛇行を繰り返したモノレールの軌道は前方の山へ真っすぐに向けられていた。薄暗いトンネルの開口が手招きしている。

「いざ!江の島へ!!」

グンマーはテンションマックスだ。2度目のトンネルをすり抜けた車体は最終駅である湘南江の島駅に滑り込んだ。モーター音が静まり、ドアが開いた。乗客がホームへと溢れ出る。レールがドンツキで終点駅のムードが漂う。

画像15.JPGモノレールの終点・湘南江の島駅

「中央前橋駅みたいんね」

上毛電鉄とは違うのだよ、上電とはな、と思いつつ、ホームのある地上5階から階段で下りる。途中に運転の模擬体験ができるシミュレーターがあり、先ほどの親子が陣取っていた。友人は悔しそうだ。

画像16.JPG
青空が似合う湘南江の島駅。現在エスカレーターの設置工事が進められている

画像17.jpg片瀬山駅から湘南江の島駅、江の島周辺の地形図(カシミール3Dを使って作成)

町工場のような巨大な駅舎を出て、人が流れる方へ着いて行く。江の島はこの道の先にあるのだろう。歩いてすぐに江ノ電の江ノ島駅があり、駅前は自撮りの観光客たちで賑わっていた。江ノ電を下車した人たちが通りへとなだれ込み、まるで縁日のようだ。「すばな通り」と呼ばれるこの通りの両側には雑貨店や土産物、食べ物屋さんが並び、「生しらす丼」と書かれた看板が目に留まった。海なし県群馬でも釜揚げしらすやちりめんじゃこは食卓に並んだけど、生のしらすがあるなんて子供の頃は想像すらしなかった。友人も同様に生しらすに反応していた。やはりここは湘南なのだ。

画像18.JPG観光客で賑わう「すばな通り」を歩いてゆけば江の島だ

通りはゆるやかな上り坂だった。海岸砂丘(浜堤)か、江の島へと続く稜線の一部か判断は難しい。坂を上り終えると正面に江の島が見えてきた。とりあえず弁天橋の手前まで歩き、橋詰広場で二人して海を眺めた。陽が傾いた湘南の海はキラキラと輝き、宝石をばら撒いたかのようだった。沖に浮かぶヨットと、遠くには大型船のシルエットも見えた。波の音に交じり、トビの声が青い空に響いている。水平線は霞んでいたが、空と海がどこまでも続いてて怖いくらいだ。

「海だね」

「やっぱ海は広いんね」

山に囲まれた海なし県民グンマーにとって、海の存在自体そのものが驚きで憧れなのだ。

画像19.JPGグンマー誰もが憧れる湘南の海。江の島も中学の修学旅行以来だ

ぼんやりと海を眺めながら30年振りの再会に感謝した。建築に憧れ、お互い職にめぐり合えた幸運。女の子にモテようとギターを練習した日々。「互いにギター、鳴らすだけで、分かりあえてた、奴もいたよ」というサザンの歌詞が頭をよぎるが、自分たちはその域まで到達できなかったな。まあいいか。

画像20.JPG

「はあ、けーるんべーや」

「えっ、もう帰るの??」

遥々やってきたグンマーの鉄ちゃんは、江の島には興味がないらしい。典型的な陸繋島としての江の島の地形や、片瀬川が形成した陸繋砂州(トンボロ)を山頂から確認したかったのに。「岩屋」と呼ばれている隆起海食洞窟も巡検したかったのに。

次回は妻と一緒に来ようと思った。朝、犬の顔を拭くのを忘れなければ大丈夫だ。そして生しらす丼を食べに行こうと誘えばきっと一緒に来てくれるはずだ。

湘南モノレールに乗って。

LINE
Twitter
facebook
google+
hatenablog
皆川典久ポートレート
皆川典久
東京スリバチ学会 会長
上州の田舎町から憧れの東京に就職で上京し、「東京人」にバカにされないようにと歩き回っていたら、都心には谷間や窪地が多いことに気づく。自分にとっては不思議に思えた谷間や窪地をその第一印象から「スリバチ」と勝手に名付け、東京スリバチ学会を設立したのが2003年。以来、地形好きな変人たちを誘ってフィールドワークと記録を続けている。2012年に『凹凸を楽しむ東京「スリバチ」地形散歩』(洋泉社)を上梓。自分と同類の地形マニアが意外にも多いことに勇気づけられ現在に至る。合言葉は「下を向いて歩こう」。
著者のご紹介
mr.ブラーン
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)ポートレート
「鎌倉殿と十三人の御家人」のゆかりの地を歩く
森川天喜(鎌倉殿と十三人の御家人)
フリージャーナリスト
佐藤淳一ポートレート
乗らずにいられない、懸垂式モノレールの魅力
佐藤淳一
ドボク+動物のかけもち写真家
宮田珠己ポートレート
湘南モノレールはどのぐらいジェットコースターなのか
宮田珠己
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
宮田珠己(続編)ポートレート
5つの面白レールを1日で。ゆかいなのりもの大冒険!
宮田珠己(続編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
村田あやこポートレート
路上に潜む異世界を求めて ー湘南モノレール沿線 路上園芸探索ー
村田あやこ
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(続編)ポートレート
湘南モノレールから歩いていける森巡り
村田あやこ(続編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(変形菌編)ポートレート
ルーペの向こうのちいさな世界
村田あやこ(変形菌編)
散歩と植物好きの会社員
村田あやこ(大船系植物編)ポートレート
「大船系」植物と玉縄桜~知っていますか?大船生まれの植物たち~
村田あやこ(大船系植物編)
太田和彦ポートレート
大船で飲む
太田和彦
作家。旅と酒をこよなく愛する
八馬智ポートレート
土木構造物としての湘南モノレール鑑賞術
八馬智
ドボクの風景を偏愛する都市鑑賞者
西村まさゆきポートレート
湘南モノレールの昔と今を比べてみる
西村まさゆき
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(続編)ポートレート
開業当時の古写真の場所はいったいどこか探す旅
西村まさゆき(続編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
西村まさゆき(車両基地編)ポートレート
大人のモノレール車両基地見学記
西村まさゆき(車両基地編)
めずらしいのりものに乗るのが好きなライター。
大船ヨイマチ新聞ポートレート
よい街 オーフナ
大船ヨイマチ新聞
大船のフリーペーパー。昼は「良い街」夜は「酔い街」。
皆川典久ポートレート
地形マニアと鉄ちゃんの凸凹乗車体験記〜湘南モノレールに乗って〜
皆川典久
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
皆川典久(続編)ポートレート
湘南モノレールに乗らずに
皆川典久(続編)
スリバチ状の谷地形を偏愛する地形マニア
能町みね子ポートレート
ほじくり湘南モノレール
能町みね子
肩書きに迷いつづけ、自称「自称漫画家」。散歩好き。
ドンツキ協会ポートレート
ドンツキクエスト in 湘南モノレール
ドンツキ協会
ドンツキ協会は東京の路地の町、向島を拠点に、袋小路『ドンツキ』の研究に取り組む団体。
大谷道子ポートレート
湘南モノレール運転士インタビュー 「運転する人どんな人」
大谷道子
ライター・編集者。
井上マサキポートレート
湘南モノレールの「まっすぐ路線図」を鑑賞する
井上マサキ
路線図を鑑賞するライター
井上マサキ(ぶら喜利)ポートレート
ぶら喜利
井上マサキ(ぶら喜利)
路線図を鑑賞するライター
鈴木章夫ポートレート
湘南モノレールバー人図鑑
鈴木章夫
誰かをちょっとだけびっくりさせるのが幸せ。かまくら駅前蔵書室(カマゾウ)室長
二藤部知哉ポートレート
ソラdeブラーンdeラーン
二藤部知哉
沿線在住のんびりブラーンランナー
いのうえのぞみポートレート
湘南フォトレール カメラを持って湘南モノレールに乗ろう!
いのうえのぞみ
モデル・タレントで世界一周を目指すカメラマン
大村祐里子ポートレート
フィルムdeブラーン
大村祐里子
フィルムカメラをこよなく愛する写真家
川口葉子ポートレート
モノレールdeカフェ散歩
川口葉子
都市散歩と喫茶時間を愛するライター、喫茶写真家。
松澤茂信ポートレート
湘南別視点ガイド
松澤茂信
東京別視点ガイド編集長。珍スポットとマニアのマニア。
川内有緒ポートレート
湘南トライアングルをめぐる旅
川内有緒
ノンフィクション作家
田中栄治ポートレート
MonoTube
田中栄治
地上と空のスピード感を追い求めている素人カメラマン
三土たつおポートレート
本物の車内アナウンスが楽しすぎた。
三土たつお
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
三土たつお(続編)ポートレート
湘南モノレール風景図鑑
三土たつお(続編)
路上のなんでもないものの名前と特徴が知りたいライター
杉浦貴美子ポートレート
食べる!湘南モノレール -湘南「地形菓子」制作奮闘記-
杉浦貴美子
地図・地形好きライター
今泉慎一ポートレート
〝もののふ隊〟駅前砦にあらわる
今泉慎一
旅・歴史・サブカル好き編集者兼ライター
ワクサカソウヘイポートレート
車窓の冒険
ワクサカソウヘイ
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
ワクサカソウヘイ(夜編)ポートレート
夜になると 湘南モノレールは
ワクサカソウヘイ(夜編)
文筆業。主にルポとかコントがフィールド。
半田カメラポートレート
大船観音の劇的楽しみ方
半田カメラ
大仏写真家
遠藤真人ポートレート
ジェットにGO!GO!!
遠藤真人
モノレールに敬礼!鉄道写真バンザイ!
石川祐基ポートレート
湘南モノレール「もじ鉄」旅
石川祐基
グラフィックデザイナー。鉄道と文字が好きな、もじ鉄。
大竹聡ポートレート
腰越で飲む
大竹聡
酒と酒場をこよなく愛するフリーライター
荻窪圭ポートレート
道標をきっかけに江の島まで古道を辿る
荻窪圭
老舗のデジタル系ライター。古道・古地図愛好家。
松本泰生ポートレート
湘南モノレールが見える階段を探して
松本泰生
階段研究家
大山顕ポートレート
湘南モノレールに乗って体長2kmのヤギを描く
大山顕
ドボクフォトグラファー
田代博ポートレート
湘南モノレールと富士山
田代博
富士山遠望鑑定士。ダイヤモンド富士ハンター。
北尾トロポートレート
町中華タウン大船をゆく
北尾トロ
町中華探検隊隊長
喜清みずほポートレート
失われた 記憶をたどる まぼろしの遊園地「江の島龍口園(えのしまりゅうこうえん)」
喜清みずほ
鎌倉観光ボランティアガイド
宮田珠己(龍口寺編)ポートレート
龍口寺の龍と、謎の仏像
宮田珠己(龍口寺編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
加門七海ポートレート
江の島怪談闇歩き
加門七海
作家
中野純ポートレート
江の島怪談闇歩き
中野純
負の走光性がある、闇歩きガイド
髙山英男ポートレート
暗渠deブラーン ~暗渠マニアが味わう湘南モノレール沿線
髙山英男
中級暗渠ハンター(自称)。
吉村生ポートレート
暗渠deブラーン ~暗渠マニアが味わう湘南モノレール沿線
吉村生
暗渠マニアックス
宮田珠己(空の駅編)ポートレート
湘南江の島駅は、日本一高い駅だった!?〜日本一、地上高が高い駅はどこか?
宮田珠己(空の駅編)
旅とジェットコースターと変なカタチの海の生きものを愛するエッセイスト
西村まさゆき(駅名編)ポートレート
湘南モノレール「駅名」ルーツをたどる旅
西村まさゆき(駅名編)
石山蓮華ポートレート
いい線いってる夜
石山蓮華
電線愛好家
中島由佳ポートレート
いい線いってる夜
中島由佳
ゴムホースマニア
加賀谷奏子ポートレート
いい線いってる夜
加賀谷奏子
サンポー編集部ポートレート
しょもたんの完全一致を探す散歩
サンポー編集部
散歩の横好き集団
中野純(鎌倉大横断編)ポートレート
鎌倉大横断ミッドナイトハイク
中野純(鎌倉大横断編)
負の走光性がある、闇歩きガイド
森川天喜ポートレート
湘南モノレール全線開通までの全記録
森川天喜
フリージャーナリスト
しょもたんポートレート
モノレールの運転士さんや駅員さんの話をきいてみよう!
しょもたん
湘南モノレールのマスコットキャラクター。
森川天喜(今昔写真撮影隊)ポートレート
湘南モノレール沿線 今昔写真撮影隊!
森川天喜(今昔写真撮影隊)
フリージャーナリスト
モノ喜利(井上マサキ)ポートレート
モノ喜利
モノ喜利(井上マサキ)
めざせ!最優秀ブラーン賞
ヴッパータール空中鉄道座談会ポートレート
ヴッパータール空中鉄道について思いっきり語る
ヴッパータール空中鉄道座談会
ヴッパータール空中鉄道に乗車した人たち
モノ散歩ポートレート
モノ散歩
モノ散歩
沿線の魅力が集結!
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)ポートレート
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日
4コマ劇場 Mr.ブラーンの休日(宮田珠己)